よくある令嬢転生だと思ったら

33

（消えてしまいたい……）

「こんな事恥ずかしがるのはお嬢様くらいですよ」

そんな言葉を言われながら新しい服を着せられたエルシャールは頬から火が出そうなほど恥ずかしい気持ちで亡霊のようにされるがままになっていた。

（貴族の常識は私に慣れない事ばかり……）

意識があるうちに他人に裸を日常見られる事が貴族令嬢の普通だとは思いもしなかったエルシャールは、どっと襲ってきた疲れに身をまかせて倒れ込むようにしてベッドに戻る。

「さあ、後は髪ですね」
「お願いします」

手入れがされていなかった事もあり、寝汗で色がくすんだシルバーブロンドを櫛で梳かれながら汗を落としてもらうと、エルシャールは無意識に安堵のため息をついた。

「お嬢様の髪はとても美しいですね」
「そんな事初めて言われました」
「まぁ、私はここまで見事なシルバーブロンドを見た事はありません、きっとお手入れをすればもっと美しく輝きます」

エルシャールはそう言って自分の事のように嬉しそうに語るナーサを不思議そうに見上げた。

「ナーサはどうして私に親切にしてくれるんですか？」

エルシャールは不思議だった。
ソレイユの婚約者として明らかに劣る自分を嫌う事はあっても好意的に接してくれるとは思っても居なかったエルシャールはナーサが自分によくしてくれる理由がわからなかった。

「私は当たり前のことをしているだけです」
「え？」
「屋敷の主人が迎え入れたなら例えその方が猫だろうとねずみであろうと私達使用人は大切に扱わなくてはいけません」

そういってナーサはエルシャールにもう少し眠るように告げる。

「さあ、もう少しお眠りになってください」
「…ええ」

エルシャールは素直に頷いて目を閉じた。

（はぐらかされてしまったようね……もう少し上手に探りを入れたら良かった）

素直に聞いて失敗してしまったと反省していると、エルシャールの掛け布団を整えたナーサが内緒話をするかのように耳元に囁く。

「私はエルシャール様がソレイユ様の婚約者と知って嬉しかったです、おやすみなさいエルシャール様」

どういうこと？そう尋ねる言葉がとろとろとした声になってエルシャールは眠りに落ちていく。
ナーサが扉を閉める小さな音を最後にエルシャールは再び眠りに落ちた。