よくある令嬢転生だと思ったら

26

エルシャールは深い暗闇の中に居た。
辺りを見渡しても何も見えないそんな場所。

「ここは一体……」

一歩、踏み出してみても景色は変わらずエルシャールは困惑した声を出した。
不思議と、恐怖はなかった。
なぜか、歩きだすと足は止まらずエルシャールが歩き続けていると目の前に一冊の本が転がっていた。

「これは……」

しゃがみ込み、本を手に取るとその本の表紙はぼろぼろで、汚れていた。

「H…ER…Hershel……エルシャール！私の名前だわ！」

読みにくいアルファベットを読み上げて、エルシャールはタイトルがエルシャールと書かれている事に驚いた。
本を膝に置き、エルシャールは表紙を開いた。
数枚は白紙のページが続き、色々な色でぐちゃぐちゃに書かれた線が現れる。

「もしかしてこれは……転生する前のエルシャールの人生？」

ひとり言を零してから、エルシャールはページを一気に10枚ほどめくる。
すると現れたのは、拙いひらがなでかかれた日記と、クレヨンで書かれたような絵だった。

「妹がうまれた、うれしい。かわいい」
ページいっぱいに書かれたその文字は左右反転しながらもエルシャールにも読めた。
文字には喜びがあふれていて、虹色に光る妹だろう人の絵と、自分の似顔絵があった。

「サンドラが生まれたのね……」

エルシャールはまた一気にページをめくる。
すると、そのページは黒いクレヨンでぐちゃぐちゃにされていた。
パラパラとページをめくり、文字が現れるとエルシャールは息を飲んだ。

「……私はサンドラの飾り、家族のお人形。殴られて蹴られて、搾取される。私は要らない子」
「サンドラが生まれてからエルシャールはずっと辛い目に合ってた……私と同じ」

何とも言えない気持ちが溢れてエルシャールはそのページを撫でた。
エルシャールの痛みと苦しみに同調し、紘子と同じ境遇のエルシャールに同情した。

「……あの人がまた来た、私を嬲る。痛い、怖い、苦しい」
「笑いながら殴られる、何をしても何をしなくても。サンドラに死ねと言われるたびに私は私が死ぬ妄想をする……」

次々とページをめくれば文字が乱れ、苦痛を訴える言葉が増えた。
それを見ていられず、エルシャールは一気に最後のページを開いた。

「……これは」

エルシャールは最後のページを見て、目を見張った。