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「お待たせしました」

高い帽子を被るシェフが現れて前菜のテリーヌが並べてられた。
すでにワインを何杯も開けたシアノスは今度は白ワインを用意させたようで、食べる事もせずに酒を嗜んでいる。

エルシリアは並べられたテリーヌの説明をするシェフの話をよく聞いていた。

「こちらのお料理は食の細いアンジェラ様でも召し上がって頂けるように野菜をゼラチンを溶かしたチキンスープで固めたものでございます」

シェフが言うテリーヌは、オクラ、ブロッコリー、パプリカ、ヤングコーン、インゲン、ナス、紫キャベツ、ズッキーニといった8種類の野菜とエビの身がグラデーションのように並べられていて紫からオレンジ、黄色から緑と鮮やかな色彩を黄金のスープで固めた食べるのがもったいないと思うほどの出来映えの料理だった。

白いお皿に映えるソースは紫がかったピンク色で、テリーヌを縁取るようにお皿を彩っていた。

「こんなきれいなお料理食べるのがもったいないです」

エルシリアはそう言ってカトラリーを取ることもせずにテリーヌに見入っていた。

「ありがとうございます、アンジェラ様。しかし、美味しいときに食べて頂けることが料理の喜びです。ぜひお口に運んでくださいませ」

なかなか食べようとしなかったエルシリアはそう言われて王女らしからぬ行動をしてしまったかと、シェフの顔色を窺った。

幸いにもシェフは不快な表情はしておらず、エルシリアがカトラリーを取って料理を口に運ぶのを待っているだけだった。

よかった、不快には思われていないようだわ。

エルシリアはほっと、息をついてからカトラリーを手に取った。

アンジェラの食事の仕方はわからないが、主人であった第二王女の食事風景はよく目にしていたエルシリアは見様見真似でフォークで支えたテリーヌをナイフで一口大に切り、口に運んだ。

舌にのせた瞬間からチキンスープが溶けてスープに溶けだした野菜の甘さと風味が口いっぱいに広がった。

口に入れたのはキャベツだけだったはずが、噛めばキュウリの香りやエビの風味まで感じてその美味しさにエルシリアはまたも感動していた。

こんなにおいしいものを毎日頂けるなんて、この国はプラシィオ国よりずっと豊かなんだわ。

エルシリアは料理ひとつとってもプラシィオ国がイシュレイ国に劣る事を知らしめられた気持ちになった。
イシュレイ国に身を置くことになったとはいえ長く親しんだ母国を思うとエルシリアは何とも言えない気持ちのままテリーヌを口に運ぶ。
気持ちが沈んでいても、一流のシェフの料理はとてもおいしく、エルシリアはシアノスの食事スピードに合わせてテリーヌを食べ、シードルを口にする。

「口に合ったようで何よりだ」

シアノスはエルシリアよりも一口が大きいが、お酒を口にする分エルシリアと変わらないスピードで前菜を食べる。
二人がほぼ同時に前菜を食べきると、次の料理が運ばれてきた。

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