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煌びやかな広間を抜けて、赤い絨毯の上を出来るだけ優雅にみえるように気をつけながらエルシリアは歩いた。
足元が見えない程長いスカートでよかった。
もし足元が見えていたら覚束ない足元まで見られてしまうもの。
侍女として暮らしていた為、ヒールを履くことのなかったエルシリアにとって高いヒールで歩く事は想像以上に難しいものだった。
絨毯がふわふわだから転けないようにしなくちゃ
スカートの中でガニ股になりそうになりつつエルシリアはその長い赤絨毯を歩き切った。
やがて辿り着いた先にある大きな扉が開かれると、大広間の間に通されてエルシリアは隣の大使達に倣って頭を下げて王が現れるのを待った。
しばらく待つと、男官が王の来訪を告げる。
緊張した空気の中、ひとりの足音だけが広間に響き、やがてエルシリア達の前でとまった。
「表をあげよ」
息が詰まるほどの威厳のある声が静かに静寂を裂いた。
エルシリアはゆっくりと顔をあげ、その男を見て言葉を失った。
歳は18のエルシリアとほとんど変わらないように見受けらた王は差し込んだ光を後ろから浴びているせいか、聖人君子として立つに相応しいオーラを纏っていた。
これがイシュレイ国の王、シアノス・イシュレイ
恐ろしいまでの存在感と威厳にエルシリアの喉はこくりと無意識に嚥下した。
顔は優しい雰囲気を纏って微笑んでいるのに、血を固めたような色の目は鋭く冷たい温度でエルシリア達を虫けらのように見下ろしている。
チグハグで恐ろしい男の顔を見ていられずにエルシリアは顔を下げた。
隣で大使がシアノスを褒め称え、取り入ろうと言葉を紡ぐのをどこか他人事のようにエルシリアは見つめていた。
一閃。
エルシリアの視界に一筋の光が目を差した。
「ぎゃあああああああ!!」
獣のような叫び声が聞こえてエルシリアはその音の方を向いた。
「ひっ!」
気前よく話していた大使の腕が絨毯に転がり、血があたりを染めていた。
錆びた匂いがエルシリアの鼻に届き、おぞましい光景に喉が引き攣った音をたてた。
「腕がっ!私の腕がぁ!!?」
肩から下をばっさりと斬り捨てられた大使が騒ぐ。
「騒がしいな」
血を吸った刀を手にしながらシアノスは天気の話をしているかのように穏やかに感想に似た不満を漏らした。
この恐ろしい空間を生み出した張本人でありながら、どこまでも他人事といった口調を崩さないシアノスは狂気的な雰囲気も持ち合わせて恐怖によってその場を支配していた。
ピタリと、動きを止めた大使にシアノスは笑みを浮かべて刀をちらつかせる。
「今すぐその腕を持ち帰るといい。我が国と違ってそちらは豊かな人脈もあるだろう?ああ、『友好の証は受け取った』と伝令も忘れずに頼む」
まるで友達と気軽に話しているかの様子のシアノスが言い切る前に大使はその場から脱兎の勢いで去っていった。
後に続くように兵達も出ていき、残されたのはエルシリアただひとり。
「名は?」
凍てつくような眼がエルシリアを獲物と見据えて眇められた。
値踏みをされている。
肌で感じ取ったそれに、怯えを隠して向き直ったエルシリアは口を開いた。
「アンジェラと申します」
真っ直ぐ意志の強い眼を向けたエルシリアに何が面白い事があったのか、シアノスが口端を吊り上げた。
「心より歓迎するぞ、我が妻よ」
足元が見えない程長いスカートでよかった。
もし足元が見えていたら覚束ない足元まで見られてしまうもの。
侍女として暮らしていた為、ヒールを履くことのなかったエルシリアにとって高いヒールで歩く事は想像以上に難しいものだった。
絨毯がふわふわだから転けないようにしなくちゃ
スカートの中でガニ股になりそうになりつつエルシリアはその長い赤絨毯を歩き切った。
やがて辿り着いた先にある大きな扉が開かれると、大広間の間に通されてエルシリアは隣の大使達に倣って頭を下げて王が現れるのを待った。
しばらく待つと、男官が王の来訪を告げる。
緊張した空気の中、ひとりの足音だけが広間に響き、やがてエルシリア達の前でとまった。
「表をあげよ」
息が詰まるほどの威厳のある声が静かに静寂を裂いた。
エルシリアはゆっくりと顔をあげ、その男を見て言葉を失った。
歳は18のエルシリアとほとんど変わらないように見受けらた王は差し込んだ光を後ろから浴びているせいか、聖人君子として立つに相応しいオーラを纏っていた。
これがイシュレイ国の王、シアノス・イシュレイ
恐ろしいまでの存在感と威厳にエルシリアの喉はこくりと無意識に嚥下した。
顔は優しい雰囲気を纏って微笑んでいるのに、血を固めたような色の目は鋭く冷たい温度でエルシリア達を虫けらのように見下ろしている。
チグハグで恐ろしい男の顔を見ていられずにエルシリアは顔を下げた。
隣で大使がシアノスを褒め称え、取り入ろうと言葉を紡ぐのをどこか他人事のようにエルシリアは見つめていた。
一閃。
エルシリアの視界に一筋の光が目を差した。
「ぎゃあああああああ!!」
獣のような叫び声が聞こえてエルシリアはその音の方を向いた。
「ひっ!」
気前よく話していた大使の腕が絨毯に転がり、血があたりを染めていた。
錆びた匂いがエルシリアの鼻に届き、おぞましい光景に喉が引き攣った音をたてた。
「腕がっ!私の腕がぁ!!?」
肩から下をばっさりと斬り捨てられた大使が騒ぐ。
「騒がしいな」
血を吸った刀を手にしながらシアノスは天気の話をしているかのように穏やかに感想に似た不満を漏らした。
この恐ろしい空間を生み出した張本人でありながら、どこまでも他人事といった口調を崩さないシアノスは狂気的な雰囲気も持ち合わせて恐怖によってその場を支配していた。
ピタリと、動きを止めた大使にシアノスは笑みを浮かべて刀をちらつかせる。
「今すぐその腕を持ち帰るといい。我が国と違ってそちらは豊かな人脈もあるだろう?ああ、『友好の証は受け取った』と伝令も忘れずに頼む」
まるで友達と気軽に話しているかの様子のシアノスが言い切る前に大使はその場から脱兎の勢いで去っていった。
後に続くように兵達も出ていき、残されたのはエルシリアただひとり。
「名は?」
凍てつくような眼がエルシリアを獲物と見据えて眇められた。
値踏みをされている。
肌で感じ取ったそれに、怯えを隠して向き直ったエルシリアは口を開いた。
「アンジェラと申します」
真っ直ぐ意志の強い眼を向けたエルシリアに何が面白い事があったのか、シアノスが口端を吊り上げた。
「心より歓迎するぞ、我が妻よ」
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