一度全てを諦めた王が全てを手に入れる話 -王を見守り続けた男-

甘糖むい

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エピローグ

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彼はひとり笑った。
笑わずにはいられなかった。
記録係の言葉通り「心のままに動いた」結果、一度は諦めた愛しい彼女も、かつて手に入るはずだった諦めた王座も何もかもが手に入った。

餌を蒔くのは簡単だった。

身体だけ大人である扱いやすい男爵令嬢で、彼女に近寄ろうとする男達を蹴散らし、
見ているだけの男に、都合のいい真実だけをみせた。
そうして最後には、自分に罪を抱く王に請われる形で、王座を明け渡させた。

全て自分の思い通りに事が進み笑いが止まらなかった。
民衆の歓声を受けながら彼は彼女の名前を呼んだ。

「ティア、愛しいヘスティア」
「なぁに、私のシュラ。愛しいシュラウド陛下」

彼女は何も知らない。
彼が彼女一人のために国をもひっくり返したなど。
何も知らなくていいのだ。




_______


出典:『古き時代の隙間』(著者 XXXXX )より抜粋ー

XX20年XX月XX日 国王リッシュは暗殺され、二人のメイドが命を落とした。
その後、后のアントワネットは魔女として火炙りで処刑された。
次期国王には第一王子であったドナルドが即位し、第二王子シュラウドは辺境伯を賜った。

XX26年XX月XX日 ……の罪によりイシュバール公爵は没落、公爵と妻は死罪。妻の死体は一か月もの間屋敷の門に晒された。娘は未成年のため死罪は免れたが流刑にあいその後衰弱死をとげた。
この判決から半年後、大きな馬車爆破事故がおこり、王家お抱えの画家と王家の騎士2名が死亡した。
この年の冬には第一王子であったアレクが王家を剥奪され流罪の地で病により死亡している。

XX27年XX月XX日 ……川で2名の令嬢の死体が見つかる。腹には子供を宿していたとされたが、身元がわからないほど損傷していたことから、のちに女神の裁きと呼ばれる歴史的な不審死として事件は終息を迎えた。
今もこの不審死に至るまでの経緯や動向は一切明らかとなっておらず、わが国ではこれらを題材とした喜劇や話が多く描かれている。

XX30年XX月XX日 新たに王となったシュラウドはその年にヘスティアを妃として迎える。翌年には第一王子が生まれた。シュラウドは国政を整備し、国内融和に努め、40年近くにわたる戦争を終結させた。戦後は戦争によって疲弊した国家の再建を行なった。
……在位中から現代に至るまで国民の間で人気の高い王の一人で賢王と呼ばれ今も高い人気を誇っている。
また、愛妻家としても一番有名なエピソードが……

XX38年XX月XX日、シュラウドの記録係が死亡。死因は不明となっているが、恐らく自死と見られている。手記には「全て見ていた私が悪い」と記されていたという。
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