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「やめなさい」
すっと、喧騒に矢が一本放たれました。
その声の主に皆が視線を動かし、ピタリと動きを止めました。
「シュラウド様っ…!」
男爵令嬢の顔に、仄かに熱がともります。
期待を存分に含んだ女の顔でシュラウドを見上げる男爵令嬢は茫然としている彼女に一瞬だけ勝ち誇ったような表情を浮かべると直ぐにシュラウドの足元に擦り寄りました。
「陛下の御前で寄ってたかって一人の女性を晒しものにする……それが貴族のやることなのか?」
シュラウドは騒ぎに加担する貴族達を𠮟りつけた後、彼女をその場に残し、男爵令嬢にまた一歩近寄りました。
男爵令嬢に優しく微笑みを向けたシュラウドは聖母を思わせる笑顔を浮かべたまま散らばった紙を一枚、また一枚と回収します。
どれほど醜い絵を見ても、聖母を思わせる笑顔を浮かべたまま最後の一枚を回収し追えるとシュラウドは男爵令嬢に絵を差し出しました。
慈悲溢れる姿に、貴族達は固唾をのんでシュラウドの動きを見守ります。
彼女を含めた皆が、どうしてシュラウドが男爵令嬢を助けるような事をするのか分かっていない様子でしたが、彼は違いました。
ずっと、シュラウドの記録係を務めていた彼だけはシュラウドが何をしようとしているのかわかっていたのです。
男爵令嬢はシュラウドが差し出した絵などに目をくれずに表情を明るくしてシュラウドに手を伸ばしました。
「見境なしとは貴方の事を言うのでしょうね」
「え」
その手が辺境伯に触れようとした時でした。
空中で男爵令嬢の手が止まりまり、何を言われたのかわからない表情を浮かべる男爵令嬢は凍り付いたように動かなくなりました。
シュラウドはそれはそれは美しい笑顔を浮かべていました。
まるで何もかもを許容するようで、そのじつ何の慈悲を持たない恐ろしい微笑みでした。
シュラウドが自分を庇って彼女ではなく自分を選んでくれたと思い込んでいた男爵令嬢を地獄に突き落とす一言に男爵令嬢は茫然としていました。
男爵令嬢が何を言われたのか理解する前に、シュラウドは容赦なく言葉を重ねました。
「美しいシンデレラストーリーが見られなくて残念です」
「まって、誤解!誤解です!私は本当はシュラウド殿下、貴方を……!」
まくし立てながら男爵令嬢はシュラウドに手を伸ばしました。
シュラウドは男爵令嬢から距離を取り、その手を躱すと一切の表情を失くして告げました。
「名を呼ぶ事を許した覚えはない」
シュラウドの声は恐ろしく冷ややかで、その場にいる全員が震えあがりました。
それは、断罪にも似た明らかな拒絶でした。
すっと、喧騒に矢が一本放たれました。
その声の主に皆が視線を動かし、ピタリと動きを止めました。
「シュラウド様っ…!」
男爵令嬢の顔に、仄かに熱がともります。
期待を存分に含んだ女の顔でシュラウドを見上げる男爵令嬢は茫然としている彼女に一瞬だけ勝ち誇ったような表情を浮かべると直ぐにシュラウドの足元に擦り寄りました。
「陛下の御前で寄ってたかって一人の女性を晒しものにする……それが貴族のやることなのか?」
シュラウドは騒ぎに加担する貴族達を𠮟りつけた後、彼女をその場に残し、男爵令嬢にまた一歩近寄りました。
男爵令嬢に優しく微笑みを向けたシュラウドは聖母を思わせる笑顔を浮かべたまま散らばった紙を一枚、また一枚と回収します。
どれほど醜い絵を見ても、聖母を思わせる笑顔を浮かべたまま最後の一枚を回収し追えるとシュラウドは男爵令嬢に絵を差し出しました。
慈悲溢れる姿に、貴族達は固唾をのんでシュラウドの動きを見守ります。
彼女を含めた皆が、どうしてシュラウドが男爵令嬢を助けるような事をするのか分かっていない様子でしたが、彼は違いました。
ずっと、シュラウドの記録係を務めていた彼だけはシュラウドが何をしようとしているのかわかっていたのです。
男爵令嬢はシュラウドが差し出した絵などに目をくれずに表情を明るくしてシュラウドに手を伸ばしました。
「見境なしとは貴方の事を言うのでしょうね」
「え」
その手が辺境伯に触れようとした時でした。
空中で男爵令嬢の手が止まりまり、何を言われたのかわからない表情を浮かべる男爵令嬢は凍り付いたように動かなくなりました。
シュラウドはそれはそれは美しい笑顔を浮かべていました。
まるで何もかもを許容するようで、そのじつ何の慈悲を持たない恐ろしい微笑みでした。
シュラウドが自分を庇って彼女ではなく自分を選んでくれたと思い込んでいた男爵令嬢を地獄に突き落とす一言に男爵令嬢は茫然としていました。
男爵令嬢が何を言われたのか理解する前に、シュラウドは容赦なく言葉を重ねました。
「美しいシンデレラストーリーが見られなくて残念です」
「まって、誤解!誤解です!私は本当はシュラウド殿下、貴方を……!」
まくし立てながら男爵令嬢はシュラウドに手を伸ばしました。
シュラウドは男爵令嬢から距離を取り、その手を躱すと一切の表情を失くして告げました。
「名を呼ぶ事を許した覚えはない」
シュラウドの声は恐ろしく冷ややかで、その場にいる全員が震えあがりました。
それは、断罪にも似た明らかな拒絶でした。
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