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「私は貴様と婚約破棄をする!」

そう言ったのは彼女の婚約者であるアレク王太子でした。
ファーストダンスを踊ろうと騒がしい空気が一瞬にして静まり返ったのを彼は柱の影でみていました。

王座がある階段の下で立ち尽くす彼女を腫れ者のように扱い、皆が距離を取りました。
ヒソヒソと扇子に隠されないような声音で姦しい悪口がそこかしこから上がり、その口性無い声はかれの耳にも届きました。

それは、彼の隣に控える男にも聞こえていたのでしょう。
ピクリと、反応を示した後は、一層気配を殺して男は彼の隣でこれからの動向を見守る事にしたようでした。
別の意味で騒がしくなった城内に、すっとドナルド陛下の手があがりました。

皆が口を閉ざして、王太子を見守ります。
陛下は自分の息子がこれから一体何をしようとするのかと王座の上から緊張した面持ちで見ていました。

皆の視線が自分に向いたのを悟って、王太子は誇らしげな表情を浮かべて彼女に向き直りました。
忌々しいとばかりに彼女を睨む芝居をうってから、王太子は言葉を発しました。

「この女は、数々の悪名を晴らす努力もせず、ひとりの令嬢に嫌がらせをする性根の腐った女であるとここに宣言する!」

そこまで言い置いてから、王太子は、騒動が始まる前からずっと自分の隣にいた男爵令嬢になぜか手を伸ばし、微笑みました。
その手を嬉々として受け入れた男爵令嬢は自慢げな表情で王太子に身を寄せました。
まるで、自分が世界を手に入れたような表情だと、彼は思いました。

男爵令嬢の豊満な胸が王太子の腕を抱き寄せると、アレクがわかりやすく下卑た表情を浮かべたのを彼は見逃しませんでした。

「私、とっても辛かったです、アレク王子」

今にも泣きだしそうな顔をして、瞳を潤ませる男爵令嬢は大げさに慰めようとする王太子の腕の中で周りに自分が被害者だと言いふらすように言葉を発しました。
潤んだ瞳は今にも零れ落ちそうなほどで、加護欲を抱かせる物でしたが、その考えを彼は直ぐに改める事になりました。
王太子に腰を引き寄せられた時、男爵令嬢が彼女に向かって一瞬だけ誇らしげに表情を変えたのを彼は見てしまったのです。

「すまない、君に辛い思いをさせた」

男爵令嬢を慰める王太子はまるで自分の方が辛いのだと言うような表情を浮かべて顔を寄せると、親密な様子を周りに見せつけました。
慰めるように唇を男爵令嬢に当ててから王太子は顔を上げました。

「皆聞け!私はこれよりヘスティア・イシュバール公爵令嬢と婚約を破棄し、愛しいシヴァ・レンドン男爵令嬢をたった今から正式な婚約者とする事を宣言する!」
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