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メイドは妃の息がかかった者から選ばれ、食事はパンと大皿とスープといったものばかり出されるようになりました。
シュラウドはメイドから出される食事を遠ざける事はしませんでしたが、時々血を吐くことがありました。

「あのガキったら毒が入ってるのに何にも反応を示さないのよ」
「もっと増やしたらどうなの?」
「そんなことして殺してしまったら疑われるのは私たちよ、アントワネット様の指示だってばれたらどんな目に合わされるか……」

偶然彼が忘れ物をとりに戻っている時に聞いた言葉に、彼はメイド達が用意する食事には時々死なない程度の毒が混ぜられていた事を知りました。
毒が入っていると知りながら食事を口にし、メイド達が下がったのを見て苦しむシュラウドを彼は見ていました。

決まった日はなく、メイド達の気まぐれで食事に毒が盛られる日々が続きました。
月に数回毒入りの食事が供される事に、シュラウドの身体はすっかり食事を受け付けなくなっていました。
それでも、弱った姿を彼以外に見せないのはシュラウドに残ったたった一つのプライドだったのでしょう。
メイド達が居なくなってから食事を吐き出すシュラウドの背中をさする事も出来ない彼は、なぜシュラウドが抵抗もせずに毒を口にするのかわからないままでした。

シュラウドが身体が弱いと聞けばシュラウドを未だに王へと望むものが諦めるだろうという王妃の差し金だったのだと、彼が気づいた頃にはシュラウドの立場は王家にほとんど残っていませんでした。

少しずつシュラウドを邪険に扱うものが増えました。

昨日まで朗らかに言葉を交わした貴族や、顔馴染みの友人まで。
それまで静観を決めていた王の側近達はシュラウドを居ないものと扱いました。

ギリギリで保たれていた均衡が崩れた事で、シュラウドを次期王にと望むものは居なくなっていました。

かつて内側から光り輝いていたシュラウドの美貌はいつしか顔色が悪く、亡霊のようになっていました。
背筋も丸くなり、肩を丸めて過ごすシュラウドはすっかり悪者に仕立て上げられていました。

シュラウドはそんな周りの姿にも何も言わず、静かに事実だけを受け入れているように彼には見えていました。
アントワネットに呼び出された日の事です。

シュラウドは教育を受けるのをやめると宣言しました。
王にならないものに教育など不要だろうと。

次の日、シュラウドは剣を捨てました。
王にならないものに武力があっては不安だろうと。

毎日ひとつ。
シュラウドは大切にしていた物から、順に全てを捨てていきました。
持っている物全てを捨てたシュラウドが自虐的に笑い、心を閉ざした日。

彼は何もできないまま、シュラウドを見ていました。
ただ傍にいることしか出来なかったのです。
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