上 下
5 / 32

5

しおりを挟む
シュラウドが7歳になる時、さらなる悲劇が訪れました。
セレナータが命を断ったのです。
息子の立場を憂いていたセレナータがどれだけ願い出てもシュラウドへの仕打ちは変わりませんでした。
自分ではなく、幼い我が子を狙う卑劣な力にセレナータは心を壊してしまったのでした。

セレナータは最後に、自分の命と引き換えに息子の継承権を抹消してほしいとの言葉を残して息絶えていました。

「母上……」

シュラウドが知らせを聞き、セレナータの部屋に訪れると、血塗れのセレナータは生前の美しい姿からは想像もできないほど醜い姿になっていました。
天井からつるされた母の姿にシュラウドは泣き叫びました。
そんなシュラウドに寄り添う人は誰も居ませんでした。

「セレナータの願い通り、シュラウドを王太子から外し、ドナルドを王太子とする」
「殿下がご聡明でセレナータも喜んでいますわ」

セレナータが自死だと診断が下ると、リッシュは重鎮達を集めて宣言しました。
その言葉にアントワネットは喜びを示しましたが、シュラウドは眉毛一つも動かしませんでした。
ただじっと、アントワネットを見つめて何かを考えている様子のシュラウドを彼は見ていました。

セレナータが亡くなってリッシュは3日は嘆き悲しんでいましたが、それもすぐに新しい妃を迎え入れた事で忘れ去ったようでした。
シュラウドと少数の使用人だけの簡素な埋葬が終わった頃にはすっかりリッシュの関心はあたらしい妃に向いていて、姿を現す事もありませんでした。

セレナータを失ってから、シュラウドの生活は一変しました。
リッシュはセレナータだけを愛していて、その息子の事などどうでも良かったのです。
母の関心を自分に向け、言う事を聞かせるための道具としてシュラウドを扱っていたのです。
アントワネットがシュラウドに何をしても、もう誰も彼女を止めようとはしません。

「今日から貴方は南の屋敷に住みなさい」
「……はい、皇后陛下」

セレナータの葬儀が終わった翌日、呼び出されたシュラウドは王宮の中でも一番端の小さな屋敷に住まいを移す事になりました。
後ろ盾もないシュラウドはセレナータの言うがまま従う他ありません。
離宮のそのまた端にある、お世辞にも人が住めるかどうかというような屋敷に、シュラウドはメイドを二人だけ与えられて、護衛もなく追い立てるように移動させられました。
シュラウドが王族とは思えないほど貧しい生活を始めた時も、彼はずっと見守っていました。

王宮から屋敷に移って、シュラウドの食事は見るからに質素になりました。
昼間に矢が降ってくることも、シュラウドの命を狙う刺客が現れる事も一日としてありませんでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花婿が差し替えられました

凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。 元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。 その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。 ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。 ※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。 ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。 こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。 出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです! ※すみません、100000字くらいになりそうです…。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.
恋愛
仲の良い4人の令嬢には、それぞれ幼い頃から決められた婚約者がいた。 優れた才能を持つ婚約者達は、騎士団に入り活躍をみせると、その評判は瞬く間に広まっていく。 年に、数回だけ行われる婚約者との交流も活躍すればする程、回数は減り気がつけばもう数年以上もお互い顔を合わせていなかった。 そんな中、4人の令嬢が街にお忍びで遊びに来たある日… 有名な娼館の前で話している男女数組を見かける。 真昼間から、騎士団の制服で娼館に来ているなんて… 呆れていると、そのうちの1人… いや、もう1人… あれ、あと2人も… まさかの、自分たちの婚約者であった。 貴方達が、好き勝手するならば、私達も自由に生きたい! そう決意した4人の令嬢の、我慢をやめたお話である。 *20話完結予定です。

処理中です...