陛下を捨てた理由

甘糖むい

文字の大きさ
6 / 84

5

しおりを挟む
これまでずっとセオドールはジェニエルとってよき夫だった。
幼い頃から一緒にいるお陰で燃えあがるような愛情ではなかったが、お互いに信頼し国の顔として君臨する辛さを理解し合えるよき戦友のような関係だった。
ベッドを共にし、生まれた子供がどちらに似ているのか想像して喧嘩するときもあった。

「陛下は今日もご一緒されないんですね」

エレナに言われてジェニエルは静かにカトラリーを置いて外を見た。
セオドールがオリヴィアを拾ってから少しずつ歯車がかみ合わなくなってきていた。

結婚をしてからジェニエルはセオドールと3つの約束をしていた。
1つ目は、セオドールが城に居る間は一緒に食事をとる事。
2つ目は、お互いを高め合うよき友である事。
3つ目は―――

その中で1つ目の、3年間破られることがなかったセオドールと食事を食べるという約束はセオドールがオリヴィアを連れて帰って来てからは1度も果たされることがなかった。

「陛下はお忙しいお方です。そのような言い方はおやめなさい、エレナ」
「……はい!皇后陛下」

ジェニエルはエレナに答えると食事を再開した。
本来なら、答えるべきではない問いだとはわかってはいたが、二人から離れて沢山の従者が聞き耳を立てている以上返答せずにはいられなかった。
ジェニエルにとって王宮は常に監視の目がある気の休まらない場所だった。
少しでもおかしな行動をとればすぐに何処からともなく噂となって世間を飛び回ってしまう厄介な鳥が紛れ込んでいて、捕らえようと躍起になればなるほどその数は増える一方。
セオドールと結婚してから完璧な皇后として振舞い続ける事で、ジェニエルは根も葉もない噂を根が張る前に枯らして体裁を保っていた。

こそこそと、そこかしこで聞こえる囁きを無視してジェニエルは一人食事を終わらせると直ぐに席を立った。
ここで何か動じたり、様子を変えてしまえば餌食になってしまう。
だからこそ、ジェニエルは誰にも悟られないように表情を取り繕って皇后であろうとしていた。

(信じていいのよねセオドール……)

食後すぐに行われる貴族達との会合に向かいながら、ジェニエルは祈るような気持ちで窓の外を見る。
そこにはこれから仕事が始まるというのに、未だにオリヴィアと親し気に話をしているセオドールが笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。 誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。 無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。 ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。 「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。 アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。 そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...