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新しい物を見るたびに作りたいものがどんどん思い浮かび喜色を浮かべているミシャルが店内を見回していると、ふと視界の片隅に古びた箱が目に留まった。
緑金の装飾が施された小さな本のような小箱。
その箱は棚の奥にひっそりと置かれていて、長い間忘れられていたかのように埃をかぶっていた。
「これは……?」
箱に近づき、ミシャルが声をかけると店員が驚きながらその中身を取り出した。
入っていたのは繊細なタティングレースを編むための古いシャトルだった。
爪きりよりも一回り大きなそれは、中心に糸を巻けること以外はどうやって使うかもわからず見たことのない形に目を輝かせたミシャルを見て、店員は懐かしそうに編み機を手に取りながら懐かしそうに呟いた。
「ああ、こんなところにあったんですね。ずいぶん昔からここにあって、すっかり忘れていました」
「どんな作品が作れるものなんですか?」
「これは、昔はやった手芸道具です。ドイリーやモチーフが作れるんです。糸を結び合わせて編み上げる伝統的な手芸でやり方さえわかれば小さい子供でも作れるので私達もよく作りました」
「そうなんですね、これはおいくらですか?」
「それ、もう長いこと忘れられていたものですから。もしご興味があれば、お譲りいたしますよ」
「えっ!」
「沢山買って頂けたのですから、お受け取り下さい」
そう言って店員はクロディクスを見て微笑む。
その言葉にミシャルは驚いたようにクロディクスを見た。
「もう屋敷に届けたから返品は不可能だ」
「優しい旦那様で羨ましいですわ」
「……はい、いつもとても良くして頂いてます」
肩をすくめながらクロディクスに言われてミシャルは自分が選んだ商品たちがいつの間にかクロディクスによって購入されていた事に驚きを隠せなかった。
何も返せないでいると、店員がクロディクスを褒め称え始めたので、ミシャルは全力で同意した。
まだ従者にも慣れてはいない居候の身分でありながら親切にされている自覚があったミシャルは、結局編み機と一緒に数点の編み図も譲ってもらう事になった。
緑金の装飾が施された小さな本のような小箱。
その箱は棚の奥にひっそりと置かれていて、長い間忘れられていたかのように埃をかぶっていた。
「これは……?」
箱に近づき、ミシャルが声をかけると店員が驚きながらその中身を取り出した。
入っていたのは繊細なタティングレースを編むための古いシャトルだった。
爪きりよりも一回り大きなそれは、中心に糸を巻けること以外はどうやって使うかもわからず見たことのない形に目を輝かせたミシャルを見て、店員は懐かしそうに編み機を手に取りながら懐かしそうに呟いた。
「ああ、こんなところにあったんですね。ずいぶん昔からここにあって、すっかり忘れていました」
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「そうなんですね、これはおいくらですか?」
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「えっ!」
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「もう屋敷に届けたから返品は不可能だ」
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何も返せないでいると、店員がクロディクスを褒め称え始めたので、ミシャルは全力で同意した。
まだ従者にも慣れてはいない居候の身分でありながら親切にされている自覚があったミシャルは、結局編み機と一緒に数点の編み図も譲ってもらう事になった。
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