双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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クロディクスが、手の甲で後ろの壁を2度ノックするとそれが合図になったのだろう。
カラカラと音を立てて動きはじめた馬車にミシャルは、小さく悲鳴をあげた。

「手を振りかえしてやってくれるか?」
「……はい」
「お気をつけていってらっしゃいませ」

クロディクスに言われて、ミシャルは彼と同じように窓の外を見た。
窓からは、明るい太陽の光を受けてリュークと横に並ぶゼリヌが手を振ってミシャルを見送ってくれていた。
これまで見送る事ばかりで、見送られることがなかったミシャルは嬉しさのあまりどうしていいかわからなかったが、クロディクスに促されるまま、ぎこちなく手を振り返した。
温かい陽の光が馬車の中に差し込み、ミシャルの顔を優しく照らす。いつもは見送る側だった自分がこうして見送られる立場に立つのは、なんだか不思議な気持ちだった。

馬車が進んでいくと、見送るリュークとゼリヌの姿が少しずつ遠ざかっていく。
彼らの手が小さくなるのを見届けそれも見えなくなると、ミシャルは心を落ち着かせるように深呼吸をした。
年甲斐もなくはしゃいだ気持ちで手を振りかえしてしまっていたと今更ながら恥ずかしがって今更ながらクロディクスに見られていた事を思い出した。

「……ごめんなさい」
「なにがだ?」
「その、はしゃいだりしてしまって笑ってるなんて、気持ち悪いですよね」

そう言ったミシャルの表情は先程まで嬉しそうにはにかんでいた表情を想像できないほど暗く、クロディクスが何か言う前にスッと表情を消して俯いた。

クロディクスに向かって思わず詫びたものの、心の中で自分の行動の浅はかさを攻め続けていた。笑顔で手を振り返した自分が、どれほど無遠慮で、場違いに思われたかと不安になっていた。
胸の奥から湧き上がるこの気持ちは、ミシャルの過去の傷から来るものだった。

幼い頃から、妹のシャルルに何度も『お姉様の笑顔は不愉快なの、笑わないでちょうだい』と言われてきたことが、ミシャルの心の奥で膿としてずっと残っていた。
シャルルの冷たく、鋭い視線を浴びるたびにミシャルは自分の笑顔が他人に不快感を与えるものだと信じ込んでしまっていた。
傍にいるメイドや両親も一緒になって同じ言葉をミシャルに告げた事も影響していた。

――自分の笑顔は相手を不愉快にさせる
だからこそミシャルの自分への評価は低く、リュークとゼリヌに手を振った自分が無意識で笑みをこぼしていた事を思い出して、失礼な事をしてしまったと感じずにはいられなかった。

無価値でしかないミシャルに対して、心を込めて送り出してくれた人々に無意識のうちに不愉快な思いをさせてしまったかもしれないと不安がるミシャルに、クロディクスが一瞬だけ唇をひき結び、すぐに笑みを作ると口を開いた。
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