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「クロディクス様?!」
「おはよう、ミシャル」
朝の陽が柔らかく差し込む馬車の中、ミシャルは驚きのあまり思わず叫んでいた。
ヴァイスと出かけるものだと思っていたミシャルにとってクロディクスが馬車内に座っているとは思いもしていない事だった。
初めて会った時の話しぶりからして、彼が進んで自ら外に出てくるなど、ミシャルには到底、信じられない事だった。
(クロディクス様が……どうしてここに?)
数日クロディクスと共に過ごしたミシャルの中のクロディクスのイメージはいつも書斎か書庫に籠りきりで仕事に没頭しているイメージが強かった。
唯一と言ってもいいクロディクスと顔を合わせる食事の場でさえも書物を片手にお酒を嗜んでいる事が多く、爵位を持っているはずであるにも関わらずクロディクスは出かける事も、彼を訪ねてくる人もミシャルは見た事がなかった。
クロディクスはお屋敷から出る事はない。
そう思い込んでいたミシャルにとって、外の世界と言ってもいい馬車の中でクロディクスと対面すること自体が異様に感じられた。
悲鳴に近い声を上げたミシャルは、茫然と立っていたが暫くしてようやく後ろでくすくすと笑う声に気が付いて振り返ると、ヴァイスが楽しげに微笑んでいた。
「いやぁ、君は俺が求めている反応をしてくれるなぁ!他の奴らは驚かしがいもなけりゃ君みたいに驚く事なんてないからなぁ!」
「ヴァイス」
興奮気味に話すヴァイスに対して、クロディクスが名前を呼んで静かにたしなめると、ヴァイスはすぐに口をつぐんだ。
「失礼、喜びのあまり取り乱した。ミシャル嬢すまない、気を悪くしないでくれ」
「い、いえ……驚いたというか、ただ……」
ミシャルは困惑したまま、言葉を濁した。
てっきりヴァイスと共に出かけるのだと思い込んでいたのはミシャルの方で、ヴァイスに確かめなかった事が招いた事をまだ関係性も築けていない相手にあたれるほどミシャルは図太くなかった。
「おはよう、ミシャル」
朝の陽が柔らかく差し込む馬車の中、ミシャルは驚きのあまり思わず叫んでいた。
ヴァイスと出かけるものだと思っていたミシャルにとってクロディクスが馬車内に座っているとは思いもしていない事だった。
初めて会った時の話しぶりからして、彼が進んで自ら外に出てくるなど、ミシャルには到底、信じられない事だった。
(クロディクス様が……どうしてここに?)
数日クロディクスと共に過ごしたミシャルの中のクロディクスのイメージはいつも書斎か書庫に籠りきりで仕事に没頭しているイメージが強かった。
唯一と言ってもいいクロディクスと顔を合わせる食事の場でさえも書物を片手にお酒を嗜んでいる事が多く、爵位を持っているはずであるにも関わらずクロディクスは出かける事も、彼を訪ねてくる人もミシャルは見た事がなかった。
クロディクスはお屋敷から出る事はない。
そう思い込んでいたミシャルにとって、外の世界と言ってもいい馬車の中でクロディクスと対面すること自体が異様に感じられた。
悲鳴に近い声を上げたミシャルは、茫然と立っていたが暫くしてようやく後ろでくすくすと笑う声に気が付いて振り返ると、ヴァイスが楽しげに微笑んでいた。
「いやぁ、君は俺が求めている反応をしてくれるなぁ!他の奴らは驚かしがいもなけりゃ君みたいに驚く事なんてないからなぁ!」
「ヴァイス」
興奮気味に話すヴァイスに対して、クロディクスが名前を呼んで静かにたしなめると、ヴァイスはすぐに口をつぐんだ。
「失礼、喜びのあまり取り乱した。ミシャル嬢すまない、気を悪くしないでくれ」
「い、いえ……驚いたというか、ただ……」
ミシャルは困惑したまま、言葉を濁した。
てっきりヴァイスと共に出かけるのだと思い込んでいたのはミシャルの方で、ヴァイスに確かめなかった事が招いた事をまだ関係性も築けていない相手にあたれるほどミシャルは図太くなかった。
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