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「どうしてこれを?」
「お世話になるお礼を考えて見たんですけど思いつかなくて、それで刺繍をしてみたんです」
もじもじと手元を見つめながらミシャルが答えると、クロディクスは一拍置いてから口を開いた。
「そうか……ありがとう、大切にする」
「はい、渡せてよかったです。受け取って貰えるかわからなかったので」
ミシャルは自分の腕前がどれほどの物か知らないでいた。
部屋に閉じ込められ、シャルルに言われるがまま刺繍を刺すだけで彼女の作ったものがどんな扱いをされているかもミシャルは知らなかった。
「今までも刺繍を刺していたのか?」
「はい、妹と家族は私が刺繍を刺している時だけは何もしてこなかったので……何かありましたか?」
「そうか」
クロディクスに問われてミシャルが答えていると、クロディクスとヴァイスが顔を見合わせた。
その何か言いたそうな雰囲気にミシャルは言葉を切って尋ねた。
「誰かに習って針を刺したのかと思ったのさ」
「本が沢山あったのでそれを身ながら差しました」
「君は文字が読めるのか?」
「少しだけ、時間は沢山ありましたから」
クロディクスの後を引き継ぐようにしてヴァイスに色々と聞かれながらミシャルは閉じ込められていた日々を思い出していた。
屋根裏部屋という要らないものばかりが詰め込まれたその場所は埃ばかりで窓も小さなものが一つしかなかった。
もう存在している事すらも忘れられたように置かれた本棚がミシャルの世界だった。
図鑑や難しい言葉が並ぶ本棚の中で幼いミシャルが惹かれたのは色鮮やかな刺繍の本だった。
幸いにも使われなくなった糸や布といった材料が沢山あったこともあって、図を見ながらミシャルは針を持った。
「なあミシャル」
「はい、何でしょうか?」
過去を振り返っていたミシャルはヴァイスに呼びかけられて意識を彼に向けた。
「俺にもひとつ作ってくれないか?」
「おい、ヴァイス」
「君だけずるいじゃないか!」
「ふふ……私の物で良ければ刺しますよ」
ミシャルはクロディクスとヴァイスのやり取りを聞いて笑い声を零した。
自分の作ったものを奪われ続けた事はあっても、請われた事は初めてでミシャルは快く承諾した。
「お世話になるお礼を考えて見たんですけど思いつかなくて、それで刺繍をしてみたんです」
もじもじと手元を見つめながらミシャルが答えると、クロディクスは一拍置いてから口を開いた。
「そうか……ありがとう、大切にする」
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ミシャルは自分の腕前がどれほどの物か知らないでいた。
部屋に閉じ込められ、シャルルに言われるがまま刺繍を刺すだけで彼女の作ったものがどんな扱いをされているかもミシャルは知らなかった。
「今までも刺繍を刺していたのか?」
「はい、妹と家族は私が刺繍を刺している時だけは何もしてこなかったので……何かありましたか?」
「そうか」
クロディクスに問われてミシャルが答えていると、クロディクスとヴァイスが顔を見合わせた。
その何か言いたそうな雰囲気にミシャルは言葉を切って尋ねた。
「誰かに習って針を刺したのかと思ったのさ」
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「君は文字が読めるのか?」
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「俺にもひとつ作ってくれないか?」
「おい、ヴァイス」
「君だけずるいじゃないか!」
「ふふ……私の物で良ければ刺しますよ」
ミシャルはクロディクスとヴァイスのやり取りを聞いて笑い声を零した。
自分の作ったものを奪われ続けた事はあっても、請われた事は初めてでミシャルは快く承諾した。
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