双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「暇ね……」

クロディクスの屋敷に来てから数日が立った。
その間にミシャルがした事と言えば時々出会うヴァイスやクロディクスと共に食事をすることと刺繍を刺す事くらいだった。
けれど、その唯一の時間つぶしも昨日やり遂げてしまったミシャルはゼリヌに淹れて貰った紅茶を飲みながらもう何度目かのため息をついた。

「ハンカチを渡しに行かれてはいかがですか?」
「それは……最近忙しそうだからお邪魔になってしまうと思うんです」

ミシャルはここ数日クロディクスがヴァイスと調べものに明け暮れている事を知っていた。
彼らは忙しいとは決して口にすることはないが、クロディクス達の様子を機敏に察しているミシャルの返事にゼリヌは答えに窮した。
ここで考えなしに答えてしまえばミシャルは遠慮して何もしないままハンカチは渡されることなく埃を被ってしまうだろう。
しかし、強引に提案してしまうのも憚られる。
結局答えが見つからず、ゼリヌがハンカチを預かろうかと考え出した時にミシャルの部屋をノックする者がいた。

「やあ、ミシャル嬢」
「ヴァイス様?」

ゼリヌが開いた扉の前に居たのはヴァイスだった。
いつもこちらを巻き込んで楽しむ破天荒な男がわざわざ自分の部屋に来るとは思いもしなかったミシャルは朗らかに笑うヴァイスに首を傾げた。

「……どうかしたんですか?」
「君が暇をしているとゼリヌから聞いたものだから少し話をしようかと思ってな」
「どうぞ、お入りください」

ミシャルにはヴァイスとの話しを断る理由も、権利もなかった。
彼を部屋に招き入れてから、机の上にほったらかしになった刺繍にミシャルは気が付いた。
誰も自分を訪ねてくることはないと図案や糸、それに出来上がったばかりのハンカチをそのままにしてしまっていた。

「何をして時間を潰しているのかと思えば刺繍をしていたのか」
「……はい。これくらいしか出来る事がなくて」
「随分と腕がいいようだな」

ヴァイスはそう言うと、机の上に畳んで置かれたままのハンカチを手に取った。
クロディクスのイニシャルとダフニーの花達を刺したそれは、ブルーグレー色の絹糸を中心に丁寧に刺されており、国一番と言われる皇后にも匹敵するほどの腕前だった。

「ありがとうございます」

ヴァイスの言葉にミシャルは照れたようにはにかんで答えた。
自分が作った物をそのまま褒められることがなかった事もあって実力がどれほどかもしらないミシャルはヴァイスの言葉がお世辞だと思いながら、嬉しさを誤魔化せなかった。
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