45 / 76
44
しおりを挟む
目を閉じたミシャルの顔をクロディクスは傷跡ひとつひとつをなぞりながら治療していた。
よく目を凝らすと細かな傷が無数に残っていて、ミシャルが受けてきた暴力の痕をクロディクスは丁寧に消していく。
傷が癒えるとミシャルの肌は白くきめ細やかだった。
「首も触れるぞ」
「はい」
緊張した面持ちで瞼を震わせたミシャルは首だけでゆっくりと頷いて返した。
目を開くことをせずに上を向いて首を差しだすミシャルはクロディクスがやろうと思えばすぐにでも首の骨を折れそうなか弱い印象を抱かせる表情をしていた。
ドレスを脱がす事は憚られて、クロディクスはレース越しでも見える傷から癒すことにした。
うなじからのぞく背中の傷には触れずに首の傷を治療した。
「終わった、痛みはあるか?」
薄く目を開いたミシャルはクロディクスの言葉に首を振って否定した。
「ミシャル様ドレスを脱がしますね」
「はい、お願いします」
クロディクスが言う前に気を利かせたゼリヌが背中のファスナーを下ろした。
コルセットをつけていないミシャルの肌は直ぐに表れ、光の下にさらされた背中の傷は何度見ても酷い痕だった。
「うつぶせになれるか?」
クロディクスに言われてミシャルはソファーにうつ伏せの体制を取った。
ミシャルは背中を見て眉間にしわを寄せたクロディクスの表情を見ることはなかった。
ミシャルが見ればきっと怯えて声も出せないでいただろう表情をまじかで見ていたゼリヌはミシャルがクロディクスの表情を見えない体制を取っていてくれてよかったと思った。
「ひどい傷だな」
そっと、クロディクスの指先が背中にくっきりと残った鞭の痕をなぞった。
無数の蛇が這ったような跡はミシャルに聞かなくてもどうやって傷をつけられたのか想像できる傷跡だった。
「痛くないです」
ミシャルが答えるとクロディクスは傷を隠すようにミシャルの背中に手のひらをかざした。
ふわりと、クロディクスの髪が重力を離れて宙に浮く。
クロディクスがゆっくりと手を動かすと、てのひらがあった場所から順に傷が消えていった。
「とってもきれいになりましたよミシャル様」
クロディクスが背を向けている間にドレスのファスナーをあげたゼリヌはそう言って身だしなみを整えていたゼリヌは、綺麗に治されたミシャルの背中は骨が浮いている以外傷一つない令嬢らしい肌に戻った事をゼリヌはミシャル以上に喜んでいた。
「ありがとうございます、クロディクス様」
身体をソファーから起こしてミシャルは背中を向けたクロディクスに声をかけた。
「他に痛む場所はあるか?」
ゼリヌに教えられた場所を粗方治療したクロディクスはそういってミシャルに向き直った。
じっと、ミシャルを見下げる目は見える範囲に傷がないか探しているだけだとわかっていながら、ミシャルはその視線から逃れたくて仕方がなかった。
よく目を凝らすと細かな傷が無数に残っていて、ミシャルが受けてきた暴力の痕をクロディクスは丁寧に消していく。
傷が癒えるとミシャルの肌は白くきめ細やかだった。
「首も触れるぞ」
「はい」
緊張した面持ちで瞼を震わせたミシャルは首だけでゆっくりと頷いて返した。
目を開くことをせずに上を向いて首を差しだすミシャルはクロディクスがやろうと思えばすぐにでも首の骨を折れそうなか弱い印象を抱かせる表情をしていた。
ドレスを脱がす事は憚られて、クロディクスはレース越しでも見える傷から癒すことにした。
うなじからのぞく背中の傷には触れずに首の傷を治療した。
「終わった、痛みはあるか?」
薄く目を開いたミシャルはクロディクスの言葉に首を振って否定した。
「ミシャル様ドレスを脱がしますね」
「はい、お願いします」
クロディクスが言う前に気を利かせたゼリヌが背中のファスナーを下ろした。
コルセットをつけていないミシャルの肌は直ぐに表れ、光の下にさらされた背中の傷は何度見ても酷い痕だった。
「うつぶせになれるか?」
クロディクスに言われてミシャルはソファーにうつ伏せの体制を取った。
ミシャルは背中を見て眉間にしわを寄せたクロディクスの表情を見ることはなかった。
ミシャルが見ればきっと怯えて声も出せないでいただろう表情をまじかで見ていたゼリヌはミシャルがクロディクスの表情を見えない体制を取っていてくれてよかったと思った。
「ひどい傷だな」
そっと、クロディクスの指先が背中にくっきりと残った鞭の痕をなぞった。
無数の蛇が這ったような跡はミシャルに聞かなくてもどうやって傷をつけられたのか想像できる傷跡だった。
「痛くないです」
ミシャルが答えるとクロディクスは傷を隠すようにミシャルの背中に手のひらをかざした。
ふわりと、クロディクスの髪が重力を離れて宙に浮く。
クロディクスがゆっくりと手を動かすと、てのひらがあった場所から順に傷が消えていった。
「とってもきれいになりましたよミシャル様」
クロディクスが背を向けている間にドレスのファスナーをあげたゼリヌはそう言って身だしなみを整えていたゼリヌは、綺麗に治されたミシャルの背中は骨が浮いている以外傷一つない令嬢らしい肌に戻った事をゼリヌはミシャル以上に喜んでいた。
「ありがとうございます、クロディクス様」
身体をソファーから起こしてミシャルは背中を向けたクロディクスに声をかけた。
「他に痛む場所はあるか?」
ゼリヌに教えられた場所を粗方治療したクロディクスはそういってミシャルに向き直った。
じっと、ミシャルを見下げる目は見える範囲に傷がないか探しているだけだとわかっていながら、ミシャルはその視線から逃れたくて仕方がなかった。
139
お気に入りに追加
2,191
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる