双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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目を閉じたミシャルの顔をクロディクスは傷跡ひとつひとつをなぞりながら治療していた。
よく目を凝らすと細かな傷が無数に残っていて、ミシャルが受けてきた暴力の痕をクロディクスは丁寧に消していく。
傷が癒えるとミシャルの肌は白くきめ細やかだった。

「首も触れるぞ」
「はい」

緊張した面持ちで瞼を震わせたミシャルは首だけでゆっくりと頷いて返した。
目を開くことをせずに上を向いて首を差しだすミシャルはクロディクスがやろうと思えばすぐにでも首の骨を折れそうなか弱い印象を抱かせる表情をしていた。

ドレスを脱がす事は憚られて、クロディクスはレース越しでも見える傷から癒すことにした。
うなじからのぞく背中の傷には触れずに首の傷を治療した。

「終わった、痛みはあるか?」

薄く目を開いたミシャルはクロディクスの言葉に首を振って否定した。

「ミシャル様ドレスを脱がしますね」
「はい、お願いします」

クロディクスが言う前に気を利かせたゼリヌが背中のファスナーを下ろした。
コルセットをつけていないミシャルの肌は直ぐに表れ、光の下にさらされた背中の傷は何度見ても酷い痕だった。

「うつぶせになれるか?」

クロディクスに言われてミシャルはソファーにうつ伏せの体制を取った。
ミシャルは背中を見て眉間にしわを寄せたクロディクスの表情を見ることはなかった。
ミシャルが見ればきっと怯えて声も出せないでいただろう表情をまじかで見ていたゼリヌはミシャルがクロディクスの表情を見えない体制を取っていてくれてよかったと思った。

「ひどい傷だな」

そっと、クロディクスの指先が背中にくっきりと残った鞭の痕をなぞった。
無数の蛇が這ったような跡はミシャルに聞かなくてもどうやって傷をつけられたのか想像できる傷跡だった。

「痛くないです」

ミシャルが答えるとクロディクスは傷を隠すようにミシャルの背中に手のひらをかざした。
ふわりと、クロディクスの髪が重力を離れて宙に浮く。

クロディクスがゆっくりと手を動かすと、てのひらがあった場所から順に傷が消えていった。

「とってもきれいになりましたよミシャル様」

クロディクスが背を向けている間にドレスのファスナーをあげたゼリヌはそう言って身だしなみを整えていたゼリヌは、綺麗に治されたミシャルの背中は骨が浮いている以外傷一つない令嬢らしい肌に戻った事をゼリヌはミシャル以上に喜んでいた。

「ありがとうございます、クロディクス様」

身体をソファーから起こしてミシャルは背中を向けたクロディクスに声をかけた。

「他に痛む場所はあるか?」

ゼリヌに教えられた場所を粗方治療したクロディクスはそういってミシャルに向き直った。
じっと、ミシャルを見下げる目は見える範囲に傷がないか探しているだけだとわかっていながら、ミシャルはその視線から逃れたくて仕方がなかった。
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