双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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クロディクスの部屋は2階にあった。
相変わらずついて行くだけで全く配置がわからないミシャルは迷いのない足取りでクロディクスの部屋に向かうゼリヌに説明されたものの一人で向かうのは難しいだろうなと思った。
食堂を出てから螺旋階段ではなく、一番右端にある階段で2階に上ってから3つも曲がった後にクロディクスの部屋はあった。

「服を脱がなくてはいけないのでしょうか…」

ゼリヌの背中に不安そうな声が届く。
首元までレースになったドレスは殆ど肌が見えない造りになっていることもあり、今は顔の傷以外は見えないミシャルの表情は不安な様子がにじむ声をしていた。

「そうですね、クロディクス様も見えない傷は治せませんから」

先に何をされるのか話したほうが不安もないだろうと判断したゼリヌが答えると、ミシャルは「そうですか」と小さく返事をした。

「大丈夫ですよミシャル様、クロディクス様は傷を治してくれるだけです」

歩いていたゼリヌが一つの扉の前で止まって振り返った。
ミシャルを安心させるためだろう笑顔を向けるゼリヌが安心させるような声をだす。
その声に安心したように返事をしたミシャルが口端だけを無理矢理押し上げて笑みを返した。

そのミシャルの表情にゼリヌは扉に向き直るとノックをした。
中からクロディクスの声が答えて、ゼリヌが開く前に扉を開けてミシャルとゼリヌを迎え入れた。

「お邪魔します」

クロディクスの脇を通ってミシャルはクロディクスの部屋に足を踏み入れた。

部屋の中はモノクロで構成された部屋だった。
黒一色の家具と、シルバーの差し色で構成された部屋は最低限のものしか置かれておらず、生活感がまったくなかった。

ソファーに座るようにうながされて、ミシャルは一つしかないソファーに腰かけた。

「顔に触るぞ」

ミシャルが腰かけるソファーではなく、クロディクスはミシャルの正面に膝をついた。
服が汚れる事も憚らないクロディクスの態度にミシャルは恐縮しつつも自分が床に座るとクロディクスを立ちあがらせようとしたが逆にソファーから立ち上がられなくされてしまった。
ゼリヌに背中側から声をかけられて大人しくするよう窘められて二人がかりで止められてしまうとミシャルはクロディクスに顔を差しだした。

ゆっくりと、傷一つない指先がミシャルの頬に触れて、指の腹で傷に触れる。
恐れる事はないとわかっていながら反射的にミシャルの身体は強張った。
じんわりとした温かな体温を感じてミシャルはぎゅっと目を閉じた。
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