双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「知らないか…」

ミシャルの答えは予想をしてたものの何の手掛かりもない事にヴァイスは黙り込んでしまった。
閉じ込められていた事も考えるとミシャルが知らないのも無理はなかった。

「すみません」

複数の問いに答えられなかったミシャルは肩を丸くして申し訳なさそうに謝った。
今までなら容赦ない平手打ちが飛んできていた為に、条件反射で身を守ろうと身体が動いたミシャルの様子をその場にいる全員が正しく理解して痛ましい目でミシャルを見つめた。

「いや、わからないことがわかっただけでも十分だ」

そういってヴァイスは椅子から立ち上がった。
何処に行くのかと驚いているのはミシャルだけで、ゼリヌもクロディクスもヴァイスが颯爽と扉から出ていくのを見送って何事もなかったかのような顔をしていた。

「あいつの事は放っておけ」

ミシャルが居る手前人間らしく扉から出て行ったヴァイスの背中を追っていたミシャルにクロディクスが声をかけた。
扉が閉まったと同時に烏に化けたヴァイスが呪い師について調べに行った事をクロディクスは理解していた。

「ミシャル」

名残惜しむように扉を見つめていたミシャルの名前をクロディクスが呼んだ。
呼ばれて驚いたミシャルの肩が大げさなほど跳ねて声の方を向いた。
澄んだ黒曜石がふたつ自分を向いた事でクロディクスは薄い唇を開いた。

「傷をよく見せてもらえるか?」

ぴくり、とミシャルは身体を震わせた。
クロディクスのような人に自分の汚い身体を見せることなど出来ないと首を左右に振って拒否を示す。
口もうまく動かせないほど、怯えるミシャルにゼリヌは慌てて近寄るとせなかに手をそっと置いた。

「大丈夫です、ミシャル様。クロディクス様はきっとミシャル様の傷を治してくれるおつもりです」

言葉少ないクロディクスをフォローするゼリヌはミシャルに声をかけながら、クロディクスへと視線を向けた。
その目は主に向けているとは思えないほど鋭く、ミシャルを傷つけるつもりかと言葉なくミシャルの傍に居なければ、クロディクスの首を細い両手でもって絞り上げるような視線だった。

「ゼリヌのいう通りだ、傷をつけるつもりはない」

自分が言葉足らずだった事を自覚していたクロディクスは気まずそうにゼリヌの視線から逃れながら口を開いた。
ミシャルの遠くを見ていた澄んだ瞳に光が戻った。

「わかりました」
「では私の部屋に。ゼリヌ」

ミシャルの返事を待ってからクロディクスは席から立ち上がった。
先に部屋を出ていく後姿を目で追ってからミシャルはゼリヌに促されるまま立ち上がった。
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