双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「もっと食べないのか?」

ミシャルは差し出されるままお皿の上の料理を食べさせられながらなぜこんなことになったのかと頭を抱えたくなった。
ゼリヌとヴァイスと共に食堂に行くと、昨日と同じくグラスを片手に座っているクロディクスがいた。
入っているお酒が違うのか、グラスはロックグラスで濃い色の酒が並々と注がれていた。
傍らに置かれたボトルが昨日と違ってすでに半分以上空いていてお酒に詳しくないミシャルにもクロディクスがいかにお酒に強いか察することが出来た。

昨日と同じくクロディクスの正面に座ると、リュークがミシャルが来ることを想定していたとでも言うように食事を運んできてくれた。

5つの大皿は量が減らされていたが、それでも二人で食べるには十分な量が乗っていた。
ゼリヌがサーブをしてミシャルの前に小皿を置いてくれたので、ミシャルはクロディクスに促されて小皿に手を伸ばした。

慣れないナイフを使わなくとも食べられるようにあらかじめ一口大に切られた肉を口に入れると、甘辛く煮られた煮汁と油が口の中でとろけるようになくなった。

「…どうした?」

味と、触感どちらも未知のものに目を見開いたミシャルに声をかけたのはクロディクスとのミシャルの間の位置に座っていたヴァイスだった。

何故ここに居るんだと、問うたクロディクスを軽く躱してご相伴にあずかると宣言したヴァイスとのかみ合わない会話のキャッチボールを放棄したクロディクスは酒のグラスを煽ってからリュークを呼んだ。
嫌そうな顔を隠しもせず現れたヴァイスの前に置かれたグラスにクロディクスが酒を注ぐとヴァイスは中身を一気に煽った。

「中々のビンテージ物だな、悪くない」

ぺろり、と上唇を舐めたヴァイスが言う。
上品さもかけらもない態度にリュークがますます眉間にしわを寄せると、クロディクスは食事の準備をすることをリュークに指示した。
それから何も話さずにクロディクスとミシャルの報告にも似た会話を聞いていたヴァイスに問われてミシャルは慌てて首を横に振った。

「すごくおいしくて…!」

上手く表現できなかったミシャルが口の中を飲み込んだ後そう答えるとヴァイスはゼリヌを見た。
それからクロディクスに視線を移して何か納得をした表情をすると大皿の傍に置かれていた小皿に別の大皿から料理を山のように盛るとミシャルの前に置いた。

「ありがとうございます?」

ヴァイスの意図がわからないものの、ミシャルは差し出された食べものを無駄にする気にはなれずに受け取ってすぐその中身を口にした。
細く切られたネギが麵のようにあんと絡んだ物をフォークに絡ませて口に運ぶ。
優しい鳥のスープと食感の残ったネギはミシャルの知らない野菜に感じる程違う調理をされていた。

頬を膨らませないように気を付けながらミシャルはフォークを動かしては幸せそうに食事をかみしめる。
昨日に続いて温かい料理を食べられる幸福感に満ちた表情はその場に居る全員の視線を集めている。
それを当人のミシャルだけが気が付かないでいた。

キラキラとした黒目が料理だけを一心不乱に見つめていてた。
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