双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

文字の大きさ
上 下
35 / 76

34

しおりを挟む
昼食を食べてからミシャルは自室に戻った。
クロディクスと少し話をすることが出来たと言えばゼリヌはにっこりと微笑んで「それはよかったですね」と言ってくれた。
ゼリヌが気を利かせてくれたおかげで時間を作ってもらえたと言えば何とも言えない顔をされたが、ミシャルがわかっていない顔をしていると、ゼリヌは意味深に笑って教えてはくれなかった。

紅茶とお茶菓子も用意してもらい、ミシャルは意気揚々と刺繍の図案を書こうとペンを取った。
当初の時間つぶしという目的も忘れて頭の中にある花の形を忘れないように手早くスケッチした。
相変わらずクロディクスの顔は朧気で思い出せないが、耳飾りの事は花の数まで思い出せた。

幽閉されている長い間にミシャルは殆どの時間を刺繍に当てた。
針を刺す仕事をしている時だけがミシャルの平穏だったともいえる。
普段はミシャルの都合も関係なく表れて好きに暴れるシャルルも、自分の手柄となる物を作っているミシャルにはあまり手荒な真似はしなかった。

ミシャルの世界は窓から見える景色だけだった。
言葉はシャルルのお古の教材や屋根裏部屋に積み重ねられた古書を引っぱり出して見様見真似で覚えた。
本の中の挿絵を真似してモチーフにしたこともあった。
始めは針を刺すミシャルを馬鹿にしていたシャルルも、ミシャルの腕が上がるとあれこれと注文を付けてくるようになった。

今日は花を、今日は小鳥をと次が出来上がるのを待たずにシャルルはミシャルに刺繍を刺すように求める事もあった。
誰に渡すのか知らないが、特別力が入った刺繍を刺すように命じられた時は、気に入ったものが出来るまで2日ほど寝る時間すら与えられなかった。

花を知らないと言えばシャルルはミシャルに図鑑を投げ渡して罵倒してきた。
そうして、言われるがまま刺繍を刺すうちにミシャルの刺繍の腕は上がった。

「お茶を入れなおしてきますね」

集中して書き込んでいたミシャルが一度ペンを置くと、じっと様子を伺っていたゼリヌはそう声をかけて冷めきった紅茶を下げていった。
止める間もなく去っていく後姿を見送ってミシャルは散らかった図案を手元にまとめた。
メインとなる花を中心にいくつか書いたパターンは鳥や蔦を組み合わせたせいか、どうも女性的でクロディクスらしさにかけていた。

…刺していれば何か思いつくかもしれないわ

そう思いいたってミシャルは書き出した図案の中から1枚のパターンを取り出した。
クロディクスが着ける耳飾りによく似たパターンだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...