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昼食を食べてからミシャルは自室に戻った。
クロディクスと少し話をすることが出来たと言えばゼリヌはにっこりと微笑んで「それはよかったですね」と言ってくれた。
ゼリヌが気を利かせてくれたおかげで時間を作ってもらえたと言えば何とも言えない顔をされたが、ミシャルがわかっていない顔をしていると、ゼリヌは意味深に笑って教えてはくれなかった。
紅茶とお茶菓子も用意してもらい、ミシャルは意気揚々と刺繍の図案を書こうとペンを取った。
当初の時間つぶしという目的も忘れて頭の中にある花の形を忘れないように手早くスケッチした。
相変わらずクロディクスの顔は朧気で思い出せないが、耳飾りの事は花の数まで思い出せた。
幽閉されている長い間にミシャルは殆どの時間を刺繍に当てた。
針を刺す仕事をしている時だけがミシャルの平穏だったともいえる。
普段はミシャルの都合も関係なく表れて好きに暴れるシャルルも、自分の手柄となる物を作っているミシャルにはあまり手荒な真似はしなかった。
ミシャルの世界は窓から見える景色だけだった。
言葉はシャルルのお古の教材や屋根裏部屋に積み重ねられた古書を引っぱり出して見様見真似で覚えた。
本の中の挿絵を真似してモチーフにしたこともあった。
始めは針を刺すミシャルを馬鹿にしていたシャルルも、ミシャルの腕が上がるとあれこれと注文を付けてくるようになった。
今日は花を、今日は小鳥をと次が出来上がるのを待たずにシャルルはミシャルに刺繍を刺すように求める事もあった。
誰に渡すのか知らないが、特別力が入った刺繍を刺すように命じられた時は、気に入ったものが出来るまで2日ほど寝る時間すら与えられなかった。
花を知らないと言えばシャルルはミシャルに図鑑を投げ渡して罵倒してきた。
そうして、言われるがまま刺繍を刺すうちにミシャルの刺繍の腕は上がった。
「お茶を入れなおしてきますね」
集中して書き込んでいたミシャルが一度ペンを置くと、じっと様子を伺っていたゼリヌはそう声をかけて冷めきった紅茶を下げていった。
止める間もなく去っていく後姿を見送ってミシャルは散らかった図案を手元にまとめた。
メインとなる花を中心にいくつか書いたパターンは鳥や蔦を組み合わせたせいか、どうも女性的でクロディクスらしさにかけていた。
…刺していれば何か思いつくかもしれないわ
そう思いいたってミシャルは書き出した図案の中から1枚のパターンを取り出した。
クロディクスが着ける耳飾りによく似たパターンだった。
クロディクスと少し話をすることが出来たと言えばゼリヌはにっこりと微笑んで「それはよかったですね」と言ってくれた。
ゼリヌが気を利かせてくれたおかげで時間を作ってもらえたと言えば何とも言えない顔をされたが、ミシャルがわかっていない顔をしていると、ゼリヌは意味深に笑って教えてはくれなかった。
紅茶とお茶菓子も用意してもらい、ミシャルは意気揚々と刺繍の図案を書こうとペンを取った。
当初の時間つぶしという目的も忘れて頭の中にある花の形を忘れないように手早くスケッチした。
相変わらずクロディクスの顔は朧気で思い出せないが、耳飾りの事は花の数まで思い出せた。
幽閉されている長い間にミシャルは殆どの時間を刺繍に当てた。
針を刺す仕事をしている時だけがミシャルの平穏だったともいえる。
普段はミシャルの都合も関係なく表れて好きに暴れるシャルルも、自分の手柄となる物を作っているミシャルにはあまり手荒な真似はしなかった。
ミシャルの世界は窓から見える景色だけだった。
言葉はシャルルのお古の教材や屋根裏部屋に積み重ねられた古書を引っぱり出して見様見真似で覚えた。
本の中の挿絵を真似してモチーフにしたこともあった。
始めは針を刺すミシャルを馬鹿にしていたシャルルも、ミシャルの腕が上がるとあれこれと注文を付けてくるようになった。
今日は花を、今日は小鳥をと次が出来上がるのを待たずにシャルルはミシャルに刺繍を刺すように求める事もあった。
誰に渡すのか知らないが、特別力が入った刺繍を刺すように命じられた時は、気に入ったものが出来るまで2日ほど寝る時間すら与えられなかった。
花を知らないと言えばシャルルはミシャルに図鑑を投げ渡して罵倒してきた。
そうして、言われるがまま刺繍を刺すうちにミシャルの刺繍の腕は上がった。
「お茶を入れなおしてきますね」
集中して書き込んでいたミシャルが一度ペンを置くと、じっと様子を伺っていたゼリヌはそう声をかけて冷めきった紅茶を下げていった。
止める間もなく去っていく後姿を見送ってミシャルは散らかった図案を手元にまとめた。
メインとなる花を中心にいくつか書いたパターンは鳥や蔦を組み合わせたせいか、どうも女性的でクロディクスらしさにかけていた。
…刺していれば何か思いつくかもしれないわ
そう思いいたってミシャルは書き出した図案の中から1枚のパターンを取り出した。
クロディクスが着ける耳飾りによく似たパターンだった。
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