双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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ミシャルの前に置かれたお菓子と紅茶がそれぞれに供されると、ミシャルはお菓子に夢中になった。
進められるままうさぎのお菓子にかぶりつけば、昨日とは違うしっとりとした食感と馴染んだ甘い香りがした。
そういえば朝を食べていなかったなと思いながらミシャルがうさぎのお菓子を食べている間、クロディクスとゼリヌは静かにミシャルを見つめていた。

焼き菓子を次々と進めながら世話を焼くゼリヌが4つめのお菓子の説明をする様子は、妹に接する姉のようでクロディクスはずいぶん馴染んだ様子のゼリヌへ恨みがましい視線を投げかけた。

「お嬢様、そういえばリューク様に呼ばれているので私は一度離れますね」

話の腰を折るような真似をしたとはしらないゼリヌはその視線に首をかしげてみせたものの、退出を促されたと理解してその場でいい訳を考えた。
クロディクスが何をする気かわからないが、ミシャルに悪いようなことはしないだろうと値踏みする視線はすっかり板についた姉のそれだった。
しっかり1秒間クロディクスと目を合わせてからゼリヌは書斎から居なくなると再び二人きりの静寂が訪れた。

「ミシャル」
「…っはい」

名前を呼ばれてミシャルは手にしていた茶器をソーサーに戻した。
口元を指で拭って、傍のハンカチで指先を綺麗にしたミシャルは隣のクロディクスに身体ごと向き直った。
声だけではなにを考えているのかまったくわからないクロディクスを見上げてミシャルの心臓がまたドキドキと大きな音を立てる。
何度見てもクロディクスは作り物めいた美しい造形をしていた。
あれだけ思い出せなかった事が不思議なほど光を内側から放つクロディクスの瞳はジョンブリアンで満月に似た色合いだった。
瞬きするたびに睫毛の影が瞳に影を作ると緑にもグレーにもみえる不思議な色にミシャルはその目に引き込まれるような錯覚を抱いた。

「ミシャル?」

もう一度名前を呼ばれてミシャルは指先で弾かれた様に意識を取り戻した。
クロディクスに見下ろされて見惚れていたと思い当たると顔に血が集まって一気に頬を赤く染める。

「ごっ、ごめんなさい!」

赤く染まったミシャルは今度は顔色を青くして泣きそうな表情でクロディクスに謝った。
見惚れていたとはいえ、長く自分の黒い瞳を見せていた事に気がついて俯くミシャルは飛んでくる叱咤に備えて身を固くした。


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