双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「何か面白い物でもあるか?」

突然声が掛かってミシャルは影がかかる手元から視線を上げた。
何をするでもなく手元をみたまま意識を遠くにやっていたようで、ミシャルが気づいた頃にはすっかり書き物をする音は聞こえなくなっていた。
そっと、伺いみるように手元から視線を動かしてミシャルはクロディクスが居た方を見たが、彼の神々しい姿はなかった。
光が照らすのはクロディクスがさっきまで居た机と、広げられた巻物の上に転がされたペン先だけで、肝心のクロディクスが見当たらない。
そういえば、と視界が思ったよりも暗くなっている事に不思議に思ったミシャルは頭上を見上げた。

「ク…クロディクス様!」

悲鳴のような声を上げてミシャルはクロディクスの名を呼んだ。
暗い影だと思った正体はクロディクスで、ミシャルが思うよりずっと近い距離でクロディクスはミシャルを見下ろしてその手元を覗き込もうとしていた。
絹糸のような髪がミシャルの手に触れる。その感触にクロディクスの近さを身をもって感じたミシャルは肩を跳ねさせて握りしめていた手を開いた。

「なんだ、何も持っていないのか」

ミシャルが何に夢中になっているのか確認をしていただけのクロディクスはその手に何もないことを知るとミシャルの隣に腰を下ろした。
普通にしているクロディクスに対してミシャルの心臓は早鐘を打っていた。
両手は未だに肩のあたりで広げたまま固まったミシャルはブリキのおもちゃの様にぎこちない動きで隣のクロディクスへと首を動かした。

「それで話とはなんだ?」

呆気に取られて状況が把握できないミシャルを置いてクロディクスはミシャルに問いかけた。
話と言われてもミシャルが言った訳でもないゼリヌの言葉を持ち出されてミシャルは戸惑っていた。
クロディクスの澄んだ目線から逃れるようにミシャルは視線をクロディクスの顔から落とすと、そのまま目についた事を口にしてしまっていた。

「痛くないんですか?」
「…なに?」

ピクリと、クロディクスの眉が動いたのにミシャルは気が付かなかった。
雰囲気がずっと重くなった事にも気づかないミシャルの視線はクロディクスの胸元だけを見ていた。

「その、」

問い返されてミシャルが口を開くと同時に書斎の扉が叩かれた。

「入れ」

止まった僅かな時間を短い返事でクロディクスは取り払った。
ゼリヌが入ってくると、茶器がわずかにぶつかりあって小さな音を立てた。
ふわっと香るのは昨日嗅いだことのある香りでミシャルの頬がわずかに緩む。

「昨日のお菓子もリューク様にお出しするよう申し付かりました」

そう言ってミシャルの前に一番上のお皿にウサギの形をしたお菓子が二匹乗ったティースタンドが置かれた。

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