双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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ゼリヌに背中を押される形で書斎に行く事になったミシャルは広い廊下を迷いなく進むゼリヌの後をついて歩いていた。

「書斎はお嬢様のお部屋の丁度真下にあります」

そうやって説明された所で、ミシャルの部屋がこの屋敷の中のどこにあるのかも正確にわかっていないミシャルには書斎の場所を教えられたところでまったく頭の中で道がつながらなかった。
迷いなく案内するゼリヌに尊敬のまなざしを送りながらミシャルはその背中に置いて行かれないように足を動かした。
慣れないヒールが付いた靴を履いたミシャルの速度に合わせて進むゼリヌの後姿はまとめられたブルーの髪色もあってメイド服を着て居なければ令嬢のように優雅で、ミシャルはその姿を真似するように歩く速度を速めた。

螺旋階段を下りて枝分かれした1本の道を進んですぐゼリヌは一つの扉の前で止まってから扉をノックした。
ミシャルの脳内で描いた地図では、書斎の上に自分の部屋があるとは到底信じられないルートを通ってたどり着いた書斎は黒い扉で出来ていた。

「クロディクス様、ミシャル様がお話があるとおいでです」

「そのまま入ってくれ、今少し手が離せない」

クロディクスの返答を受けて、一言断りを入れたゼリヌは迷いなく扉を開けた。

開かれた扉に怯えた表情を浮かべたミシャルがゼリヌに縋るように一歩足を引こうと動く。
その足が後ろに引く前にゼリヌは有無を言わさない様子で背中を押した事で、ミシャルは忙しそうな様子のクロディクスに遠慮して帰りたそうなミシャルを無視したゼリヌによって書斎の中に足を踏み入れることになった。

「あの、やっぱり私…」

帰りますと言いかけたミシャルは足元から顔を上げて、中央に視線を向けると息を飲んだ。
振り返ろうとした事も忘れてミシャルは光が降り注ぐ中心から目を離せないでいた。

日取り窓から入り込んだ光が机に腰かけて書物を片手に書き物をして座っていたクロディクスを照らしていた。
ほこりが光を受けてホログラムのようにクロディクスを飾っているようにも見えて、その美しさにミシャルは言葉を忘れて見入っていた。

「話があると言ったな少し待ってくれ…ゼリヌ、茶菓子と紅茶を」

ペンの滑る音と共に伝えられた言葉は忙しそうな手元と違って柔らかい印象を持たせる声音だった。
無意識で肯定の返事をしてしまったミシャルはゼリヌに促されるままクロディクスが座る机の隣に案内され、椅子を引かれるとそのまま座らされた。

こちらの机にも難しそうな言語で書かれた本がいくつも積み重ねられていて、ミシャルは読めない言語ばかりに囲まれたままうろうろと視線を彷徨わせたものの、クロディクスの視線がこちらを向かない事いいことにクロディクスを見つめていた。

「私はすこし席を外しますね」

いつの間にか机の上の書籍を片付けたゼリヌがそう声をかけてミシャルを残していなくなると、ミシャルはクロディクスと二人きりにされてしまった。
紙に引っかかるペン先の音が響く室内でミシャルは心細い気持ちを抱くと手元に視線を落として大人しくしていた。
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