双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「本日はイングリッシュブレックファーストにいたしました」
「ありがとうございます」

そう言って差し出される紅茶も頭からかけられることは慣れていても、口にするのにも躊躇してしまう。
カップをじっと見つめたまま動かないミシャルの怯えた様子にもゼリヌは何も言わずに紅茶の飲み方を簡単に説明してくれた。

ソファーに座らされて、紅茶に砂糖をミルクを入れると美味しい事を教えられたミシャルは素直に震える手で角砂糖を一つと、ミルクを注いだ。
叱咤が飛んでこない事を確認してからソーサーについていたスプーンで紅茶を混ぜてから、ミシャルはゼリヌに見つめられながらミルクティーを口にした。

ミルクの優しい口当たりと丁度いい温度の紅茶は香り高く、味がわからないミシャルでも一級品だとわかる味わいだった。

「ここでミシャル様に害をなす方はいませんよ」

甘い紅茶を半分ほど飲んでから机の上に茶器を置いたミシャルは動くたびにゼリヌの様子を伺っていた。
傷だらけの捨て猫のようなミシャルの様子を伺っていたゼリヌはそう言ってミシャルの頭をそっと撫でた。

沢山の手がミシャルに触れてきたが、撫でられたのは始めてでますます身体を固くしたミシャルにゼリヌは困ったように笑った。

嘲笑うでもなく、ミシャルを安心させようとする笑みだった。

「本日は何をしてお過ごしになられますか?」

問われてミシャルは瞬きをした。
今日何をして過ごそうかと考えたことなど今までなく、びっくりしてしまっていた。

「お部屋から出るのはだめだって…」

クロディクスとの約束を思い出してミシャルはゼリヌの問いに答えた。

「お屋敷から出ることはオススメ出来ませんが…お屋敷の中は好きに過ごしても問題ありませんよ」

ミシャルの答えに首を傾げたゼリヌはそう言って再度何かしたいことはないかとミシャルに問いかけた。

何かしたいことなど、これまで考えた事がないミシャルにとってゼリヌの優しい質問は難しい問題だった。

何をするにしても制限されて何もしない事が一番被害が少ないことを本能的に学んだミシャルにとって自我を出す事は暴力を余計に受けるだけのものとして認識されていた。

「刺繍をされてもいいですし、書庫もございますよ」

そう言って提案されるとミシャルは昨日、ここに来て刺繍を刺そうと考えていた事を思いだしてゼリヌにそう告げた。

「クロディクス様もさぞ喜ばれると思います」

「そうかしら…昨日はその…興奮してしまって」

しどろもどろになりつつミシャルは昨日の自分は自分らしくなかった事を告げて俯いた。

「…まだモチーフも決まっていないんです」

そう言って肩を落とすミシャルがゼリヌには細さも相まって迷子で泣きそうになった小さな子供に見えた。
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