双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

文字の大きさ
上 下
22 / 76

21

しおりを挟む
ゼリヌに服を脱がされそうになってミシャルは慌てて自分で出来ると真っ赤になって抵抗した。

「一人で脱げます!」

誰かに肌を見られたことがないミシャルにとって同性であっても恥ずかしいことに変わりはなく、全身をリンゴ色に染めたミシャルをゼリヌは可愛い物を見る目で見つめて微笑んだ。

恥じらうミシャルに気を使ってゼリヌは先に浴室の扉を開いた。
裸になっても寒くないようにと浴室を程よく温めておきつつ、ミシャルが服を脱ぎやすい空気を作ってやった。
あたたかな空気が脱衣所にまで流れてきて、ミシャルはゼリヌの意識が自分に向いていない間にと慌てて衣服を脱いでから簡単に畳んで足元に置いた。

「足元にお気を付けください」

ゼリヌに返事をしてからミシャルは今日何度目かの感嘆を上げた。

「わぁ!…すごい、屋根裏部屋より広くてとてもいい匂いがするわ!」

湯気が立った猫足のバスタブと花の香りに包まれてミシャルは自分が裸である事も忘れて足早にバスタブに近寄った。
そっと、手を差し入れると体温よりもいくつか高い温度のお湯に触れて無意識のうちにため息が漏れた。

「お身体が冷えないうち入ってください。猫足はついていますが、バスタブは逃げませんよ」

「っ…はい」

ミシャルが物珍しい表情で湯船のお湯を指先で遊んでいると、ゼリヌはそっとミシャルに声をかけた。
その言葉にミシャルは自分が裸で子供のようにお湯に夢中になっていた事を思い出して慌てて身体を丸めると、バスタブの端からゆっくりと片足を入れた。

まるで野良猫をお風呂に入れる様子を再現したような状況にゼリヌはくすりと、一つ笑ってからミシャルが両足を入れて、広いバスタブの中で身体を丸めたミシャルに近寄った。

「身体から力を抜いて寛いでください。お湯浴みは一日の疲れを癒すためにあるんですよ」

そうやって声をかければミシャルは素直に身体から力を抜いてバスタブにもたれ掛かった。
肩までしかないミシャルの髪がバスタブの淵に触れてから肩に落ちる。

「ミシャル様が温まっている間に髪を洗いましょう」

ゼリヌはミシャルに触れてもよいか許可を取ってから、整えられた様子のない短い髪に触れた。
碌に手入れもされていない髪にお湯をかけて簡単な汚れを落とすように何度か同じ事を繰り返せば、ミシャルは気持ちがよさそうな表情でため息をついた。

「後で毛先も整えましょうね、目を瞑っていて下さい」

そうやってゼリヌの一言一言に怯えた表情を見せるものの、ゼリヌの笑みに絆されて簡単にミシャルはゼリヌに従って目を閉じた。
不安なのがありありとわかる薄目を開けたままのミシャルの様子に、ゼリヌは保護したばかりの子猫がいたらこんな様子なのだろうと心を和ませた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...