21 / 76
20
しおりを挟む
事のあらましを知らないリュークはギュンっとミシャルを射貫いた。
何も知らないはずなのにミシャルが悪いと決めつけた視線にミシャルは身をすくませた。
今にも殺されてしまいそうな視線から逃げ出したいと思うものの、その場から動けないでいた。
「私がからかったからミシャルが紅茶をこぼしてしまっただけだ」
ミシャルがリュークに事のあらましを伝えようと口を開きかけたのを制してクロディクスがリュークに告げた。
「え?」とミシャルとリュークの声が重なる。
どう考えてもミシャルが一人で慌てふためいた結果の騒動を庇おうとするクロディクスにミシャルが口を開こうとすれば、そっと手だけでミシャルの口は封じられてしまった。
そんなクロディクスとミシャルのやり取りを見ていただけのリュークはため息を一つついた。
音に反応してミシャルがリュークを伺えば彼はクロディクスが悪いと言うのであれば何も言うつもりがないと素知らぬふりで転がったカップを片付けていた。
「さ、もう夜も遅い。今日はこの辺にしておこう」
クロディクスの言葉でミシャルがやらかしてしまったものの、楽しい食事の時間は終わりを告げた。
「こちらです、ミシャル様」
ミシャルはゼリヌに案内されるがまま自室へと向かった。
行きと同じく迷路のように入り組んだ廊下を進んでミシャルは膨れたお腹をさすりながらゼリヌの後を追った。
ゼリヌが居なければきっと迷子になっているに違いないと思いながらミシャルは用意してもらった部屋についてほっと、息を吐いた。
クロディクスとの食事会はミシャルが思っているよりも緊張していたのだとミシャルは自分の吐息で気が付いた。
「湯浴みのご用意は出来ておりますが、いかがなさいますか?」
「湯浴みですか?」
ミシャルがソファーに座って一息ついた頃、見計らったようにゼリヌに問われて、ミシャルは湯浴みが分からずに困惑した表情で問い返した。
生れてから冷たい水で身体を拭いたり髪を洗うことはあってもそれは衛生上仕方なく行っていた一種の儀式みたいなものだったミシャルにとっては未知の単語だった。
「はい、お湯でお身体や髪を洗ったり、お湯に身体をつけて疲れを取ることもできますよ」
「熱くはないんでしょうか?」
お湯と聞けば熱湯しか思いつかないミシャルはシャルルに嫌がらせでポットに入ったお湯をかけられた事もあり、お湯にいいイメージがなかった。
幸い大したやけどにならずに済んだものの、ミシャルにとって空のポットで殴られたのはこれまで受けた暴力の中でもトラウマになっている事だった。
「気持ちがいい温かさにしています、説明するよりも体験された方が分かると思いますよ」
小さな子供に言い聞かせるようなゼリヌの言葉にミシャルは遠慮がちに頷いた。
「はい、ありがとうございます。」
なんとなく、怖いことはされないだろうなとゼリヌの笑顔をみて判断したミシャルはゼリヌに促されるがまま浴室に向かった。
何も知らないはずなのにミシャルが悪いと決めつけた視線にミシャルは身をすくませた。
今にも殺されてしまいそうな視線から逃げ出したいと思うものの、その場から動けないでいた。
「私がからかったからミシャルが紅茶をこぼしてしまっただけだ」
ミシャルがリュークに事のあらましを伝えようと口を開きかけたのを制してクロディクスがリュークに告げた。
「え?」とミシャルとリュークの声が重なる。
どう考えてもミシャルが一人で慌てふためいた結果の騒動を庇おうとするクロディクスにミシャルが口を開こうとすれば、そっと手だけでミシャルの口は封じられてしまった。
そんなクロディクスとミシャルのやり取りを見ていただけのリュークはため息を一つついた。
音に反応してミシャルがリュークを伺えば彼はクロディクスが悪いと言うのであれば何も言うつもりがないと素知らぬふりで転がったカップを片付けていた。
「さ、もう夜も遅い。今日はこの辺にしておこう」
クロディクスの言葉でミシャルがやらかしてしまったものの、楽しい食事の時間は終わりを告げた。
「こちらです、ミシャル様」
ミシャルはゼリヌに案内されるがまま自室へと向かった。
行きと同じく迷路のように入り組んだ廊下を進んでミシャルは膨れたお腹をさすりながらゼリヌの後を追った。
ゼリヌが居なければきっと迷子になっているに違いないと思いながらミシャルは用意してもらった部屋についてほっと、息を吐いた。
クロディクスとの食事会はミシャルが思っているよりも緊張していたのだとミシャルは自分の吐息で気が付いた。
「湯浴みのご用意は出来ておりますが、いかがなさいますか?」
「湯浴みですか?」
ミシャルがソファーに座って一息ついた頃、見計らったようにゼリヌに問われて、ミシャルは湯浴みが分からずに困惑した表情で問い返した。
生れてから冷たい水で身体を拭いたり髪を洗うことはあってもそれは衛生上仕方なく行っていた一種の儀式みたいなものだったミシャルにとっては未知の単語だった。
「はい、お湯でお身体や髪を洗ったり、お湯に身体をつけて疲れを取ることもできますよ」
「熱くはないんでしょうか?」
お湯と聞けば熱湯しか思いつかないミシャルはシャルルに嫌がらせでポットに入ったお湯をかけられた事もあり、お湯にいいイメージがなかった。
幸い大したやけどにならずに済んだものの、ミシャルにとって空のポットで殴られたのはこれまで受けた暴力の中でもトラウマになっている事だった。
「気持ちがいい温かさにしています、説明するよりも体験された方が分かると思いますよ」
小さな子供に言い聞かせるようなゼリヌの言葉にミシャルは遠慮がちに頷いた。
「はい、ありがとうございます。」
なんとなく、怖いことはされないだろうなとゼリヌの笑顔をみて判断したミシャルはゼリヌに促されるがまま浴室に向かった。
173
お気に入りに追加
2,191
あなたにおすすめの小説

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる