双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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事のあらましを知らないリュークはギュンっとミシャルを射貫いた。
何も知らないはずなのにミシャルが悪いと決めつけた視線にミシャルは身をすくませた。
今にも殺されてしまいそうな視線から逃げ出したいと思うものの、その場から動けないでいた。

「私がからかったからミシャルが紅茶をこぼしてしまっただけだ」

ミシャルがリュークに事のあらましを伝えようと口を開きかけたのを制してクロディクスがリュークに告げた。
「え?」とミシャルとリュークの声が重なる。

どう考えてもミシャルが一人で慌てふためいた結果の騒動を庇おうとするクロディクスにミシャルが口を開こうとすれば、そっと手だけでミシャルの口は封じられてしまった。
そんなクロディクスとミシャルのやり取りを見ていただけのリュークはため息を一つついた。
音に反応してミシャルがリュークを伺えば彼はクロディクスが悪いと言うのであれば何も言うつもりがないと素知らぬふりで転がったカップを片付けていた。

「さ、もう夜も遅い。今日はこの辺にしておこう」

クロディクスの言葉でミシャルがやらかしてしまったものの、楽しい食事の時間は終わりを告げた。

「こちらです、ミシャル様」
ミシャルはゼリヌに案内されるがまま自室へと向かった。
行きと同じく迷路のように入り組んだ廊下を進んでミシャルは膨れたお腹をさすりながらゼリヌの後を追った。

ゼリヌが居なければきっと迷子になっているに違いないと思いながらミシャルは用意してもらった部屋についてほっと、息を吐いた。
クロディクスとの食事会はミシャルが思っているよりも緊張していたのだとミシャルは自分の吐息で気が付いた。

「湯浴みのご用意は出来ておりますが、いかがなさいますか?」
「湯浴みですか?」

ミシャルがソファーに座って一息ついた頃、見計らったようにゼリヌに問われて、ミシャルは湯浴みが分からずに困惑した表情で問い返した。
生れてから冷たい水で身体を拭いたり髪を洗うことはあってもそれは衛生上仕方なく行っていた一種の儀式みたいなものだったミシャルにとっては未知の単語だった。

「はい、お湯でお身体や髪を洗ったり、お湯に身体をつけて疲れを取ることもできますよ」
「熱くはないんでしょうか?」

お湯と聞けば熱湯しか思いつかないミシャルはシャルルに嫌がらせでポットに入ったお湯をかけられた事もあり、お湯にいいイメージがなかった。
幸い大したやけどにならずに済んだものの、ミシャルにとって空のポットで殴られたのはこれまで受けた暴力の中でもトラウマになっている事だった。

「気持ちがいい温かさにしています、説明するよりも体験された方が分かると思いますよ」

小さな子供に言い聞かせるようなゼリヌの言葉にミシャルは遠慮がちに頷いた。

「はい、ありがとうございます。」

なんとなく、怖いことはされないだろうなとゼリヌの笑顔をみて判断したミシャルはゼリヌに促されるがまま浴室に向かった。
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