双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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何故こうなったのか、ミシャルは客室に通されてお茶を飲むクロデュクスを見ながら考えていた。
カップをもっているだけなのにどこか威圧感を感じて、ミシャルは大人しくクロディクスの動向を待つことにした。

自然な動作で紅茶を口にしてリュークの小言を聞き逃しているクロデュクスにはミシャルの困惑など興味もなさそうにみえる。

「ここで住むからには約束してほしい事がいくつかある」

クロデュクスの言葉にミシャルは緊張した面持ちで背筋を伸ばした。

「ひとつめは、薔薇にさわらない事」

なんとなく予想していた事だった内容にミシェルは頷いた。
摘み取った途端に鉱石に代わる不思議な花をふつうの人間が触れるとは思わなかった。

「物分かりが良くて助かる。この薔薇は私以外が触ると良くない事になる魔法をかけている。万が一転んだり触れないように気をつけてくれ」

ぼかされてはいるものの、薔薇に触れれば命がなくなるとさっしたミシャルはこの屋敷全体を覆う薔薇を思い出して恐怖で震えた。

…できる限りお屋敷から出ないようにしよう。

幸い屋敷の中は外観よりずっと広く、案内されなければどこがなんの部屋かすらわからないほど部屋数があった。
ミシャルは客室に通されるまでに教えてもらったいくつかの部屋を思い出して室内だけでも充分やっていける気がしていた。

「ふたつめは、屋敷の外に無断で出ないこと。もしも帰りたくなったら遠慮なく言ってほしい、リュークを付けて送り届けよう。ただあまりここに人が居ると知られるのは都合が悪い。滞在する間は幽閉状態になるが了承してくれ。」

クロデュクスの言葉にミシャルは頷いた。
お屋敷の中では自由にしてもいいと、何度も言われている。
今までほとんど屋根裏部屋に幽閉されていたミシャルにとって今更お屋敷から出れないくらいなんともなかった。

「みっつめ、自分のことは自分でしてもらう事になる。ここにはリューク以外いない。侍女をつけてやりたいが人をここに招くことはしたくない。わかってもらえるだろうか」

「わかりました。伯爵家でもずっとそうして居ましたから、大丈夫です」

ミシャルはクロデュクスに向かってぎこちなく笑顔を浮かべながら答えた。

聞きたいことが山ほどあるが聞いても良いのか迷うミシャルは挙動不審なくらいあちらこちらに目線を動かしてクロデュクスの胸元に視線を止めた。 

「ミシャルから確認しておきたい事は?」

凝視していた胸元からクロデュクスの顔へ視線を向けたミシャルは、迷った素振りを示しながらゆっくりと首を左右に振った。

なんとなく今は聞くべきではないと本能的に判断したミシャルは、ずっと静観をしていたリュークに促されて部屋を出て行く。


一人残ったクロデュクスの肩に窓から入り込んだ一羽の烏がとまる。
ずっと外で聞いていたらしく、羽はすっかり綺麗に毛繕いされていた。

「面白い娘が飛び込んできたみたいだなぁ?」

烏が鮮明な言葉を発してクロデュクスを揶揄うそぶりを見せる。

「どうだろうな」

クロデュクスは烏の言葉に濁した返事で答えた。

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