双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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「リューク」

クロデュクスがリュークの名前を呼んだ。
鋭い鋼のような音でありながら、クロディクスの小さな声が聞こえてすぐにリュークはミシャルの喉元から刃を離した。
何か言いたそうな顔でクロディクスを見つめていたものの、リュークは結局何も言わなかった。
ただ、ミシャルが少しでもおかしなことをすれば首を切られる雰囲気はそのままだった。
リュークが剣を下ろしたのを見届けて、ミシャルはようやっと息が出来た心地になった。
今すぐ死ぬ事はない自分の状況にミシャルはひとまず胸を撫で下ろした。

「ついてきてください」

リュークは一言告げるとさっさと屋敷へ向かって歩き出した。
ミシャルを先ほどまで警戒していた雰囲気は何処かにやってしまったようなリュークの様子にミシャルはあっけにとられたが、すぐにリュークの後を追うことにした。
余計な事をすれば殺されてしまうそんな雰囲気を感じつつ、抜き身のままの剣を持つリュークを慌てミシャルは追いかける。

もつれそうな足が、バラの蔦を踏みそうになりつつもリュークに続いて屋敷に足を踏み入れると、クロディクスが螺旋階段の上でミシャル達を待っていた。
リュークがクロディクスに向かって頭を下げる。
つられるようにミシャルもクロディクスに向かって頭を下げた。

「何故こんなところに?」
クロデュクスに問われてミシャルは本当のことを話すか迷った。

『この屋敷に入った者は二度と出てこれない』
自分で死ぬ勇気もないミシャルはこの屋敷で殺されるならそれでいいと自暴自棄で入り込んだ失礼な娘だと今更自覚していた。

「正直に言った方が身のためですよ」
口籠るミシャルに痺れを切らしたリュークが剣をちらつかせる。
死を間近に感じて、死のうとしていたはずのミシャルは正直にここにきた目的を話した。
いざとなると、殺されることが怖くて仕方がなかった。

「死に場所にしようとして…」

そこまで言ってまたミシャルは言葉を切った。
続きを言って殺されるのは怖かった。
まだ剣を振り上げていないか確認しようと、ちらっと隣を見れば、リュークが変なものを見る目でミシャルを見ていた。

「…花を採りに来たのでは?」

リュークはまじまじとミシャルを見ながらミシェルに問いかけた。
その目は驚きに見開かれながらも、ミシャルを怪しんでいて、何を答えるのか興味を示していた。

「花、ですか?確かに綺麗ですけど…」

不思議な事を聞かれてミシャルは小首を傾げた。
ミシャルがこの屋敷について知っているのは恐ろしい怪物が住んでいて、ここに入れば2度と出られない。
それだけの噂だった。

薔薇のことなんて聞いたこともないわ。

ミシャルは記憶を遡ってみたがやはり、覚えがなかった。

「ここの薔薇は手折ればダイヤモンドよりも硬い鉱石になる」

そう口を開いたのはクロディクスだった。

クロディクスは螺旋階段から庭へ続く扉の前に立つと、部屋内に伸びた蔓の先にある八重咲の青薔薇をひとつ茎から手折ってみせた。

水を吸う流れを目視化したように、薔薇が硬くなり、光を乱反射させて美しい精巧な薔薇の置物へと色を変えた。

光の加減で七色に光る不思議な虹彩にミシャルは息を呑んだ。

「本当に知らなかったようですね」

リュークの呟きにミシャルは慌て頷いた。
リュークもまた、ミシャルに驚き、クロディクスは意味深な笑みを浮かべてミシャルをみていた。
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