双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる

甘糖むい

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ミシャルは踏み込んだ屋敷の庭に立ちすくんでいた。

勢いで飛び出したものの、噂の公爵邸は思っていたよりも遠くミシャルの足では離れた場所にある公爵邸に着く頃に辺りはすっかり夕陽が赤く光っていた。
不気味な色をしたその色に照らされてミシャルの影が長く伸びる。

地図も碌に知らないミシャルでもたどり着けたのは南の端にあるという噂を信じて足を進めたおかげだった。
夕日のせいか、屋敷には人が住んでいる気配が感じられず、不気味にオレンジ色に光っていた。

予想よりも随分立派な門は扉が閉まっていたが、ダメもとで手に掛けると鍵はかけられていなかったようだった。
子供が一人入れる隙間を開けてミシャルは門の中に入り込んだ。

中に入ると一転むせ返るような薔薇の香りがしてミシャルは辺りを見渡した。
なんの手入れもされていない庭に咲き誇る青薔薇は、不気味な美しさでミシャルを迎え入れていた。

…このまま絡め取られそうだわ。

振り返って見上げた門を覆うように蔓が絡まっていた。
今にも動き出しそうな蔓は、ミシャルの様子を窺っているみたいに見えた。
怪しく光る青薔薇からミシャルは距離とろうと門に向かい合った状態で屋敷に向かって後ずさりした。

とん、と背に何かが当たりあわてて振り返ろうとしてミシャルは口を開けたまま固まった。

「どちら様でしょう」

なんの気配もなく人がミシャルの後ろに立っていた。
顔を中途半端に向けたままのミシャルが顔をあげると、今にも射られそうな双眼が温度もなく見下ろしていた。

紅く光るふたつの宝石は本物のように温度がなく、ミシャルは恐ろしさに身を震わせた。

「誰だと聞いています」

再度冷たい声音で問われ、首元にはいつの間にか鋭い刃が当てられていた。
振りでもない明確な殺意を感じる。
ミシャルは震える唇から必死に言葉を選んで答えた。

「ミ…ミシャルと申します」

「ここが何処かわかって入ってきたのですか?」

「はい」

ミシャルの返答に男の目が光る。
首に当たる刃が食い込んでミシャルの首から血が滲む。
何か間違った答えをしてしまったと感づいた時にはもう遅かった。

「素直に答えるとは、よほど死にたいらしいですね」

男が笑い、剣を持つ腕に力がこもったのが雰囲気でわかった。

もうダメだと、諦めたミシャルは目を閉じて自分の行く末を待った。

「待て」

声がして、目の前の男の動きが止まった。

「クロディクス様」

ミシャルはそっと目を開いて男を窺い見た。
彼の意識はミシャルにはなく、屋敷の方を向いている。

ミシャルも後を追うようにそちらを見て、瞠目した。

作り物めいた美しい男が2階の窓際から2人を見下ろしていた。
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