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刺身についての話
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「なあ、なんで俺と結婚したんだ?」
今年で結婚10年目になる夫がそう聞いた。
10年目になると豪華なディナーなんてしない。
子供たちが寝たあと2人でビールを飲みながらおつまみを食べていた最中だった。
「……別に決め手なんてないわよ。たまたま結婚したい時に付き合っていたのがあんただったってだけ」
「おまえなあ、ここは少しでも男らしいとことか高身長な所とか言うべきだろ」
「だったらそのお腹と腰痛なんとかしてから言ってよ」
「……………」
夫は誤魔化すようにビールを仰いだ。
そのまま自分用のおつまみである刺身を食べる。
そう。結婚の決め手なんてない。
周りがぽつぽつと結婚しだしていたし、互いに適齢期だったからに過ぎない。
けど、付き合う決め手だったらある。
『 お刺身の食べ方、綺麗ですね』
初めて声をかけたのは私。
友人の結婚式でだされた刺身を添え物のツマや大葉を残さず食べている姿に好感を持った。
わさびを置いた刺身を器用に大葉と大根のツマを巻いて醤油をつけて1口で食べる食べ方。
褒めた私に旦那はちょっと困ったような照れくさい笑顔をした。
そこから着々と交際を重ね、結婚をした。
紆余曲折ありつつもこうやってなんだかんだ夫婦を続けてる。
あの所より腹が出てしまった旦那を眺めながら私はビールを飲む。
旦那はそんな私の思いなどつゆ知らず、わさびを載せた刺身を大葉とツマで巻いて醤油をつけて1口で食べる。
あの頃に私にあの刺身の食べ方は旦那が1番好きな刺身の食べ方なんだと言ってあげたらあの頃の私は結婚していただろうか。
そんな出来もしない考えに私は思わず笑った。
「なあ、余ってる味噌汁飲んでいいか?」
「洗い物は自分でしてね」
「わかってるよ」
旦那はそう言いながら台所に消える。
10分ほど戻ってきた旦那のお盆に余ったツマがのった味噌汁と私の汁物茶碗。
「私飲むって言ってないわよ」
「そうはいってもあとこれくらいしなかったんだ。明日の朝食に飲むにしても少なすぎるし」
「もう」
私は自分の汁物茶碗を受け取った。
夕飯に食べたものと同じものだけど、お酒を飲みながら飲む味噌汁はまた違う。
「ねえ、そのツマ入れるのって美味しいの?」
「大根の生と茹での間を楽しめるんだ」
「ふーん」
そう言いながら私は味噌汁をすすった。
美味しそうに食べる旦那を眺める。
あの頃の私に、まあいいもんだよと心の中ど言っておこう。
今年で結婚10年目になる夫がそう聞いた。
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「……別に決め手なんてないわよ。たまたま結婚したい時に付き合っていたのがあんただったってだけ」
「おまえなあ、ここは少しでも男らしいとことか高身長な所とか言うべきだろ」
「だったらそのお腹と腰痛なんとかしてから言ってよ」
「……………」
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そのまま自分用のおつまみである刺身を食べる。
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けど、付き合う決め手だったらある。
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あの頃に私にあの刺身の食べ方は旦那が1番好きな刺身の食べ方なんだと言ってあげたらあの頃の私は結婚していただろうか。
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