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エピローグ

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 昼過ぎの一番日が高く昇る頃、窓の多いこの店は明かりをつける必要が無くなるほどに明るくなる。自然に照らされる店内の光景はレンのお気に入りだ。
 普段ならその光をめいいっぱい取り込み、店の雰囲気を明るくさせるところだが、さすがに眩しすぎた。
 レンは客が眩しいと言う前にライトグレーのカーテンを閉める。
 思いのほか鳴ったカーテンレールの音は常連客の話し声で完全にかき消された。

「グラハムさん、元気そうだったわ。お孫さんに囲まれて毎日楽しそうにしているみたい」
「よかったわねぇ。双子ですっけ? 1人でも大変なのに2人なんてもっと大変よ」
「ええ、私たちが話している間も構えか構えってうるさいのなんのって。まだ3歳だからこれからもっと騒がしくなるわね。息子さんも案外それを目的でお父さんをこっち呼びよせたのかも」
「まあでも、あの時はリースさん亡くなって寂しそうにしていたから、いいんじゃない?」
「孫と言えばあんたの所もでしょう? 毎週毎週連れてきて」
「私のところはほら、娘が付きっきりでみてるから。そのおかげでこっちにうるさくなくて随分快適にーー」

 常連客のエイダとカーラの世間話は今日も止まるところを知らない。
 最近はカーラの娘が子供を産んでしまい、あまり自分の母親に構わなくなったせいで2人の会話を止める人間がエイダの夫しかいなくなったせいでおしゃべりの勢いもここ数年でさらに増している。
 最初は気になっていた2人のおしゃべりだがこの店を開いて5年もすれば特に何も思わずに仕事が出来るがーー、今日だけはそうもいかない。
 レンは壁にかけられた時計をちらりとみる。
 まだ正午を過ぎたばかりの時間だ。予定まであと5時間ほどあるというのにどうも落ち着かない。
 今日だって、本当は店を開けるつもりはなかったのだ。だが、どうにも落ち着かず、結局店を開けることになってしまった。
 それでも落ち着きは消えない。やはり店ではなく、施設の手伝いをすべきだっただろうか。
 だが、それをしたら両親に「ここはいいから家で待っていろ」と言われてしまうだろう。
 だから店を開けたというのに、落ち着きが全く戻らない。 落ち着け。3年ぶりだ。
 さすがに大人のレンくらいは落ち着いていなくてはどうするのだ。
 ああ、5杯目のコーヒーを飲んでしまおうか。いい加減胃腸に悪い気がするが今日くらいはーー。

「レン」
「は、はい!」

 考え事をしている最中にエイダとカーラに呼ばれ、思わず声が上擦ってしまう。
 流石の2人もレンの様子がおかしいと思っただろう。
 どう誤魔化そうか、そう考えているレンをよそに2人はやってきたレンにコーヒー2杯分の金を渡した。
意味のわからない2人の行為にレンはま抜けた顔をする。

「……え?」
「ちょっと早いけど今日は帰るわ」
「ちょ、ちょっと、早くないですか!?」
「ですけど……、貴方のお父さんに言われているし」
「父が何か言ったんですか!?」
「ええ、『今日はレンには予定があって、昼頃には店を閉める』って」
「な……!?」

 まさかマークがそんなことを事前に言っていたとは思わなかった。
 確かにそうも言わなければエイダとカーラは帰らないだろう。
しかし、正直そんな気遣いしないで欲しかった。

「も、もっといませんか!? なんならサービスでコーヒーでもーー」
「残念だけど、これから娘家族が来て食事会をするのよ。エイダ達と一緒にね」
「そうそう、だからまた明日ね」
「そ、そんな……!」

客にそう言われてしまえば、レンは引きとめるわけにはいかない。
レンは後で父親にクレームを入れることを決意しながら頷く、

「レン、また来るわ」
「……はい」

出ていく2人に手を振った後、思わずため息をつく。
しばらく2人の世間話を聴きながら落ち着こうと思った計画が台無しだ。
1人になった店内ーー、2人の世間話で忘れていた緊張がレンを蝕み始める。
落ち着けと自分に言い聞かせるが、緊張はどんどん強くなってくる。

「……ああもう!」

レンはむしゃくしゃな気持ちになりながら、店の窓を全部開けた。
強い風がレンの体を通り抜ける。
カーテンで隠れていた外の景色があらわになり、レンはいつも通りの光景を目の当たりにしたがーー、そこにガランがいた。
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