年下セレブのわがまま事情

最悪の再会

　扉の鍵を開ける音でレンは目を覚ました。
　窓から見える太陽は大して動いていないことから、あの鳥頭の女性がでていってからそう時間は経っていないことがわかり、時間の進まさにため息を吐く。

「……」

　レンは体を起こし、音がした扉の方に視線を移した。
　そこに現れた人物をみて、レンの意識は一気に覚醒をする。

「ガラン！」

　扉の前にいたのはガランだった。
　スーツではなく、黒猫の仮面を被っているがあれはまさしくガランだ。
　レンはベットから起き上がり、ガランの元に駆け寄ろうとする。
　しかし、体がまだ本調子ではないことを忘れていた。無様に床に倒れてしまう。
　受身をとることなく落ちたため、全身から落ちる羽目になってしまい、あちこちで痛みを訴える体を無視してレンは少し離れた扉にいるガランに叫ぶように言った。

「ガランッ！会いたかったです！ お願いです！ 話をーー」
「俺から話すことは無い」

　ガランはレンの言葉を遮り、顔をそむけた。
　拒絶するガランの言葉にレンの言葉は詰まるが、必死に言葉を繋げる。

「は、話をしましょう！ お、お願いですから」
「……」

　レンの必死の懇願に、ガランは言葉を返すことはなかった。
　だが、こちらに近づいてきてくれた。話をしてくれるのかと思いきやガランはベッドから落ちたレンを抱え、戻してくれた。
　乱れた衣服も整えてくれるガランの手つきはいつもと変わらぬ優しいもので、やはり仮面を被ってもガランは変わらないのだというのが分かり、レンは安心した顔を浮かべながらガランに言った。

「ありがとう、ございます」
「何がありがとうだ……ッ」

　ガランはレンの言葉を吐き捨てるように低い声を出した。
　仮面から覗く口元は歪んでいる。
　レンはなぜガランがそんな顔をするのか分からず、不思議な表情を浮かべるレンを見て、ガランは勢いよく被っていた面を脱ぎ捨てた。
　勢いよく叩きつけられる面の乾いた音が部屋を満たす。
　こんな荒々しいガランを見たのは始めてだ。
　レンは恐る恐るガランの名を呼ぶ。

「ガ、ガラン……？」

　ようやく姿を見せてくれたガランの顔は、怒りに満ちていた。
　黒の瞳は吊り上がり、眉根と唇がわなわなと震えている。
　そんな見たことの無い表情をするガランにレンは困惑するしかない。
　ガランは怒りのままにレンが着させられていたシャツの首元を掴んだ。
　そこから見えるレンの肌はおびただしい数の常時の跡がある。
　赤黒くなっている所もあるそれにガランは言葉にならない怒りの声を上げた。

「こんなのッ！ なんで怒らねぇんだよ！？」
「あ、あの……」
「しまいには話がしたいだと？ いっその事殴られたり、怒鳴られた方がマシだった。お前のお人好しもいい加減にしろ！」

　やりようのない怒りからか、ガランはレンの胸倉を掴んで居ない方の手で自分の頭を強く掻きむしりだす。
　明らかに興奮しているガランにレンは叫んだ。

「ガラン！」
「ーーッ！」
「……お、落ち着きましょう。深呼吸、ですから」

　レンはそう言いながら、頭を掻きむしるガランの手に自分の手を被せた。
　ガランはレンに言われてようやく自分が自傷行為をしているのを気がついたらしい。
　掴んでいた胸倉を手を離し、レンから手を離し、離れるように後ずさる。
　そのまま、バツの悪そうに目を泳がせるガランを見て、やはり仮面を被っててもガランはガランだとレンは感じた。
　祭司とかなんて、関係ない。今目の前にいるのはあのガランだ。
　レンはガランを安心させるために、笑みを作る。

「大丈夫ですから。痛みもありませんし」
「……だから、お前はなんでそうなんだよ」

　ガランの心の底からでたような言葉。
　力のないその声にレンは言いかけた言葉をつぐんだ。