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初めての家

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 両親は2人、今日はどちらも夜勤だ。
 それ以外でも、ほぼ施設に出ずっぱりの2人だ。同時に家にいることは余程の事が無い限りない。
 たとえば、レンの誕生日など。

「……」

 そういえば、あと数週間でレンは誕生日を迎える。
 ガランとこういう付き合いになってからは今年くらいガランに合わせようと思っていたのだが、色々とありそれは伝えていない。
 2人は変わらずレンの誕生日には予定を空けてくれているだろう。
 多忙な2人だから、予定変更は大変だ。
 ガランにはレンの誕生日を祝いたいのならば、誕生日を避けてもらわねばならないだろう。
 もっとも、この関係が続くならの場合の話だが。

「すみません、いきなり家に連れてくるなんて」
「別に、視線に晒されたくなかっただけだ」
「視線?」
「……なんでもねぇ」

 まるで先程のやり取りを見ていた人間がいたと言うようなガランの言葉にレンは思わず聞き返したが、ガランはなんでもないとリビングにあるソファに腰掛けた。
 あの場にだれか近所の人間でもいたのだろうか。レンの認識では居ないと思ったが、冷静なガランの目から見ればいたのかもしれない。
 一体誰が、近所の人間だったら後で聞かれたら面倒だ。しかし、今はガランのことを優先しようとレンはそれ以上尋ねるのを辞めた。
 ガランは始めてくるレンの家の中を興味深そうに眺めるわけでもなく、座ったソファに考え事をしながらぼんやりとしていた。
 レンはあえて明るい口調で問う。

「コーヒー、いれますか? 結局、飲んでませんでしたよね」
「……」

 ガランはレンの言葉を返すことはなかった。
 ソファにも椅子にも座らず、ただぼうっとしている。
 レンはガランが先程言った別れの言葉を思い出す。あの言葉は気のせいではない。
 ガランからあの言葉を取り消すには、レンもそれなりの行動をしなくてはならなかった。
 レンは用意しようとしていたコーヒー粉をしまい直し、未だ考え事をしているガランに優しく声をかけた。

「ガラン、僕の部屋に行きませんか?」

 そう誘ったレンの声は震えていた。
 手も震えている。それを、レンは握りこぶしをつくり何とか抑えた。
 ガランは黒曜の瞳をレンに向ける。
 その黒い磨き抜かれた瞳に何度吸い込まれそうになったか。
 必死で理性を抑え、正気を抑えていたことをガランは知っていたのだろうか。
 そのガランの瞳がレンに静かに問う。
 
「……いいのか?」

 ガランの成長途中でありながらも厚く、深みのある声がレンに問う。
 その声が、瞳がこれからどうなるのか。成長期が止まったレンとは違い、様々な変化をこれからガランはしていくだろう。
 それをレンは見たかった。なるべく間近で。

「ええ、もちろん」

 レンはそう返しながら、廊下に案内をする。階段上のすぐの部屋。
 いつも寝泊まりをしている自室は机とベッドと少しの本棚しかないシンプルな部屋だ。
 ガランが普段泊まっているホテルとは多違いの質素な部屋なので、ガランにとっては居心地の悪い部屋だろう

「どうぞ、ガラン」

 レンは部屋の電気をつけながら言った。
 殺風景なその部屋をガランは物珍しそうに眺める。
 その間にレンは扉を閉め、念の為、鍵もかけた。
 一度もかけたことの無い鍵。
 もはや無用の長物となっていた鍵をレンは22年間で初めてかける。
 カチャンという軽い施錠音は店の鍵のような本格的なものと比べると随分軽い。レンにとってはどんな扉よりも重いものだったが。
 そういえば、ケビンのことを忘れていた。
 店に置いたままのケビンはどうしているだろうか。突然店主であるレンがいなくなってケビンも困っているだろう。
 メールでもしようと思ったが、携帯自体も店にあることを思い出し、レンは内心息を落とす。
 今までなら、ガランを待たせてケビンの方に行っていただろう。
 だが、それをすればガランの方がいなくなるかもしれない。
 だから、店に行くことなどできなかった。
 レンは大したものもないのにレンの自室をキョロキョロと見ているガランに気づかれないよう、部屋の電気を消した。
 急に暗くなり、焦っているだろうガランが落ち着く隙にレンは慣れしたしんだ部屋の利を活かし、ガランの方による。

「ガラン」

 レンは軽い力でガランの肩を押す。
 ガランはそれだけで、ベッドに倒されてくれた。既にレンよりも頭半分高いその背はこれからもっと成長するだろう。

「……レン」

 暗闇の中、ベッドカバーに沈むガランの形ばかりの静止を聞かず、レンはガランの上に馬乗りになり、身につけたスーツの上からその鍛えられた胸に触れた。
 服の上からでも分かる硬く厚い胸にレンの熱い吐息が漏れた。
 ガランの頬に触れ、レンはその唇に自分の唇を重ねた。
 
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