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連絡のない日
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ネクタイピンを見てレンが感じていた違和感の正体に気が付くことが出来た。
男がつけていたネクタイピンは男のスーツの様子から考えると色味のついたものを使用している。
それは、犬の形をしていた。
『彼らは身なりのいいスーツ身に着けて、動物のバッチをつけているらしい。それで、応対した人間に対して『貴方はこの世界にいるか』と聞いて気になって話を聞こうとした人を彼らの集会に誘うとか』
マークが言っていた言葉をレンは思い出す。
つけているのがバッチではなくネクタイピンだが、この異様な雰囲気――、この男がマークの言う宗教勧誘の人間なのだろう。
マークの話から数日。こんな早く来るとは予想外だった。
この個性を殺した格好も、宗教に染まっている人間ならば納得がいく。
男の正体がわかったところで内心店に入れたことを後悔したが、接客業の自分がそう客をえり好みできるわけがない。
マークの忠告通り、勧誘されたら「興味がない」と言って断ろう。
「ところで、一ついいでしょうか」
レンが決意を固めたと同時に男から言葉をかけられた。
来たか、とレンは身構える。しかしそんなレンに男は予想外の言葉をかけるのだった。
「そのぬいぐるみ、とてもきれいですね」
男が指さしたのはキッチンの清潔な場所に避難させたぬいぐるみだった。
なんとなく、男にぬいぐるみを見られるのは嫌だと思ってしまい、レンはとっさにぬいぐるみと男の間に立つ。
「……ええ、ありがとうございます」
「ドレスも素敵だ。どこで買われたんですか?」
「……ぬいぐるみは街の店で、服は知り合いの手作りです」
「そうなんですか。それは素晴らしいですね」
男は素晴らしいなど思ってなさそうな顔でそう言うと、そのままにしていたコーヒーを再度手に取り一口飲む。
口から離したコーヒーは全く減っていない。口をつけただけだ。
「……」
なんなのだろう。
コーヒーを飲みに来たんじゃないのか。やはり、勧誘が目的なのか。
そう訝しげに見るレンの視線を男は気が付き、コーヒーから視線をレンに戻す。
「貴方、自分はこの世界にいるかと思いますか?」
来た。
レンはすぐに返答した。
「思います」
「……おや」
男は意外そうな顔でレンを見る。
ようやく見せた人間味のある男の顔にレンの男に対する不気味さはますます強まっていく。
「なぜそう思うんですか?」
「……世界は、自分と共にあるからです。世界があって自分がいる。そういうものじゃないのですか?」
「ふむ。そう言え、と言われたのですか?」
「……」
男は黙り込んだレンにしてやったりといった風に微笑む。
その醜悪と評してもいい笑みにレンの背筋は凍りそうになる。
「実は私、とある宗教の宣教活動をしてまして。この地域の皆さん、みんなそうおっしゃるんですよ。ですから、どなたかがそう言えと指示されているのでは、と思いましてね」
「……気のせいでしょう」
「そうですか」
男はそこまで気にした様子はなく、コーヒーをまた一口唇につける。もちろん量は減っていない。
それから何か思いついたように顔を上げると、胸ポケットから名刺を取り出し、レンに渡した。
「もし、興味があればぜひご連絡を。貴方ならいつでも歓迎いたしますよ」
「いえ、結構ですので」
「そうはおっしゃらず」
男はメールアドレスしか書かれていない紙切れを机に置き、そのまま立ち上がり店を出ていく。
扉のべルの音がレンの耳に残った。
「……」
レンはほとんど手がつけられていないコーヒーと男が置いていったメールアドレスを交互に見つめる。
不気味な人間がこんなのが後数人いるとは。
レンはそう考えながらぬいぐるみからドレスを脱がせ、再度エイダに渡せるように袋に戻す。
ドレスも同じようにしまっておいた棚に戻し、レンはケビンのメールアドレスにぬいぐるみの写真を添付し、送信した。
男がつけていたネクタイピンは男のスーツの様子から考えると色味のついたものを使用している。
それは、犬の形をしていた。
『彼らは身なりのいいスーツ身に着けて、動物のバッチをつけているらしい。それで、応対した人間に対して『貴方はこの世界にいるか』と聞いて気になって話を聞こうとした人を彼らの集会に誘うとか』
マークが言っていた言葉をレンは思い出す。
つけているのがバッチではなくネクタイピンだが、この異様な雰囲気――、この男がマークの言う宗教勧誘の人間なのだろう。
マークの話から数日。こんな早く来るとは予想外だった。
この個性を殺した格好も、宗教に染まっている人間ならば納得がいく。
男の正体がわかったところで内心店に入れたことを後悔したが、接客業の自分がそう客をえり好みできるわけがない。
マークの忠告通り、勧誘されたら「興味がない」と言って断ろう。
「ところで、一ついいでしょうか」
レンが決意を固めたと同時に男から言葉をかけられた。
来たか、とレンは身構える。しかしそんなレンに男は予想外の言葉をかけるのだった。
「そのぬいぐるみ、とてもきれいですね」
男が指さしたのはキッチンの清潔な場所に避難させたぬいぐるみだった。
なんとなく、男にぬいぐるみを見られるのは嫌だと思ってしまい、レンはとっさにぬいぐるみと男の間に立つ。
「……ええ、ありがとうございます」
「ドレスも素敵だ。どこで買われたんですか?」
「……ぬいぐるみは街の店で、服は知り合いの手作りです」
「そうなんですか。それは素晴らしいですね」
男は素晴らしいなど思ってなさそうな顔でそう言うと、そのままにしていたコーヒーを再度手に取り一口飲む。
口から離したコーヒーは全く減っていない。口をつけただけだ。
「……」
なんなのだろう。
コーヒーを飲みに来たんじゃないのか。やはり、勧誘が目的なのか。
そう訝しげに見るレンの視線を男は気が付き、コーヒーから視線をレンに戻す。
「貴方、自分はこの世界にいるかと思いますか?」
来た。
レンはすぐに返答した。
「思います」
「……おや」
男は意外そうな顔でレンを見る。
ようやく見せた人間味のある男の顔にレンの男に対する不気味さはますます強まっていく。
「なぜそう思うんですか?」
「……世界は、自分と共にあるからです。世界があって自分がいる。そういうものじゃないのですか?」
「ふむ。そう言え、と言われたのですか?」
「……」
男は黙り込んだレンにしてやったりといった風に微笑む。
その醜悪と評してもいい笑みにレンの背筋は凍りそうになる。
「実は私、とある宗教の宣教活動をしてまして。この地域の皆さん、みんなそうおっしゃるんですよ。ですから、どなたかがそう言えと指示されているのでは、と思いましてね」
「……気のせいでしょう」
「そうですか」
男はそこまで気にした様子はなく、コーヒーをまた一口唇につける。もちろん量は減っていない。
それから何か思いついたように顔を上げると、胸ポケットから名刺を取り出し、レンに渡した。
「もし、興味があればぜひご連絡を。貴方ならいつでも歓迎いたしますよ」
「いえ、結構ですので」
「そうはおっしゃらず」
男はメールアドレスしか書かれていない紙切れを机に置き、そのまま立ち上がり店を出ていく。
扉のべルの音がレンの耳に残った。
「……」
レンはほとんど手がつけられていないコーヒーと男が置いていったメールアドレスを交互に見つめる。
不気味な人間がこんなのが後数人いるとは。
レンはそう考えながらぬいぐるみからドレスを脱がせ、再度エイダに渡せるように袋に戻す。
ドレスも同じようにしまっておいた棚に戻し、レンはケビンのメールアドレスにぬいぐるみの写真を添付し、送信した。
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