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連絡のない日
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エイダの旦那がぬいぐるみと共に店にやってきたのは店が落ち着き、エイダとカーラがレンに再度、ガランとケビンの事を聞こうとした時だった。
「あらやだ貴方。もう来たの?」
心の底から嫌そうに言った妻にエイダの旦那はあきれ顔をしながらレンにテイクアウト用のカフェオレを注文した。
ついでにエイダとカーラの分のコーヒーの値段を割り増しして会計をしてくれた。
それからレンからカフェオレの入った紙袋を受けとると、交換とばかりにエイダから言われたぬいぐるみをレンに渡す。
エイダは最後までまだいたいと駄々をこねたが、自分の旦那にはなんだかんだ敵わないのだろう。素直に立ち上がり、送るといわれたカーラも立ち上がる。
「それじゃあまたね、レン」
「また明日」
「はい、お二人ともお気をつけて」
扉が閉まるまでレンは二人を見送る。
手に戻ったぬいぐるみはケビンのドレスの写真を撮ったらまたエイダに渡さないといけない。明日に来るだろうから、今のうちに撮っておかねば。
エイダのドレスはかなりかわいらしいものだった。対してケビンのドレスはかなり活発に見える。この両極端なドレスをきちんと着こなせるぬいぐるみを選んだガランはやはりセンスがいい。
「……」
レンは少し複雑な気持ちになりながらケビンのドレスをぬいぐるみに着せ、早速写真を撮った。
色合いなどを確認し、ケビンのメールアドレスに送ろうとしたところで店の扉が開く。
一瞬エイダ達が忘れ物をしたのだろうかと思ったが、その予想は外れた。
「こんにちは」
現れたのは見知らぬ男だった。
綺麗に横わけに整えられた髪と、張りつめた紺のスーツを身に着けた男は直立不動のまま扉の前で挨拶をする。
そのスタンプのような判を押したような挨拶にレンはもしかするとセールスの類かなにかだと疑う。
だが、レンが口を開くより早く男は口を開いた。
「一人ですが、席はどちらに?」
「え……? どこでも、大丈夫です」
「よかった。では、コーヒーを一つお願いします」
男は正面のカウンター席に座る。
その機械のようなすばやい動きにレンは少しばかり警戒心を強めた。
ぬいぐるみを奥に置き、ひとまずレンはコーヒーをいれる準備をしながら、男の顔をこっそり盗み見る。
男はセールスマンといった様相だ。丸い目と鼻――男には申し訳ないが特徴のない。
いや、ホクロなど、わかりやすい特徴はある。だが、せっかくの個性を貼り付けたハンコのような振る舞いで隠している雰囲気がする。
なんだか不気味だ。
人間であるはずなのに、それを隠し、その分の隠された人間性が濁った瞳に現れている。
その瞳が、がコーヒーを淹れるレンの手つきをじっと眺めているのだ。
不気味さだけならば初対面のケビンよりも上かもしれない。男には申し訳ないが、コーヒーを飲んだらさっさと出て欲しい。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
男はコーヒーを頼んだ礼儀とばかりに一口飲む。その後、カップを机に置き、手から離す。
いまだたっぷり残っているコーヒーからは湯気が立っている。
もちろん一口飲んだら熱くて、少し冷ましたいという気持ちもあるだろうが、なんだかレンは嫌な気分になった。
普段はそう思わないのに、この気持ちはなんなのだろう。
「おいしいです」
「……ありがとうございます」
レンは自分の内に湧き出たこの気持ちが何なのかわからず、その正体を探ろうと男の方を改めて観察をする。
男はセールスマンのような風貌をしている。
ここは田舎町の店だから男の姿は浮いているが、ここが街だったら男はそこまで浮いた存在にはなっていなかっただろう。
スーツは仕立てがよさそうだ。だが、派手な物ではない。見る人が見ればわかる程度の控えめなもの。
ネクタイもシャツも問題はない。レンの視線はネクタイに止められたネクタイピンに目をやった。
「……」
「あらやだ貴方。もう来たの?」
心の底から嫌そうに言った妻にエイダの旦那はあきれ顔をしながらレンにテイクアウト用のカフェオレを注文した。
ついでにエイダとカーラの分のコーヒーの値段を割り増しして会計をしてくれた。
それからレンからカフェオレの入った紙袋を受けとると、交換とばかりにエイダから言われたぬいぐるみをレンに渡す。
エイダは最後までまだいたいと駄々をこねたが、自分の旦那にはなんだかんだ敵わないのだろう。素直に立ち上がり、送るといわれたカーラも立ち上がる。
「それじゃあまたね、レン」
「また明日」
「はい、お二人ともお気をつけて」
扉が閉まるまでレンは二人を見送る。
手に戻ったぬいぐるみはケビンのドレスの写真を撮ったらまたエイダに渡さないといけない。明日に来るだろうから、今のうちに撮っておかねば。
エイダのドレスはかなりかわいらしいものだった。対してケビンのドレスはかなり活発に見える。この両極端なドレスをきちんと着こなせるぬいぐるみを選んだガランはやはりセンスがいい。
「……」
レンは少し複雑な気持ちになりながらケビンのドレスをぬいぐるみに着せ、早速写真を撮った。
色合いなどを確認し、ケビンのメールアドレスに送ろうとしたところで店の扉が開く。
一瞬エイダ達が忘れ物をしたのだろうかと思ったが、その予想は外れた。
「こんにちは」
現れたのは見知らぬ男だった。
綺麗に横わけに整えられた髪と、張りつめた紺のスーツを身に着けた男は直立不動のまま扉の前で挨拶をする。
そのスタンプのような判を押したような挨拶にレンはもしかするとセールスの類かなにかだと疑う。
だが、レンが口を開くより早く男は口を開いた。
「一人ですが、席はどちらに?」
「え……? どこでも、大丈夫です」
「よかった。では、コーヒーを一つお願いします」
男は正面のカウンター席に座る。
その機械のようなすばやい動きにレンは少しばかり警戒心を強めた。
ぬいぐるみを奥に置き、ひとまずレンはコーヒーをいれる準備をしながら、男の顔をこっそり盗み見る。
男はセールスマンといった様相だ。丸い目と鼻――男には申し訳ないが特徴のない。
いや、ホクロなど、わかりやすい特徴はある。だが、せっかくの個性を貼り付けたハンコのような振る舞いで隠している雰囲気がする。
なんだか不気味だ。
人間であるはずなのに、それを隠し、その分の隠された人間性が濁った瞳に現れている。
その瞳が、がコーヒーを淹れるレンの手つきをじっと眺めているのだ。
不気味さだけならば初対面のケビンよりも上かもしれない。男には申し訳ないが、コーヒーを飲んだらさっさと出て欲しい。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
男はコーヒーを頼んだ礼儀とばかりに一口飲む。その後、カップを机に置き、手から離す。
いまだたっぷり残っているコーヒーからは湯気が立っている。
もちろん一口飲んだら熱くて、少し冷ましたいという気持ちもあるだろうが、なんだかレンは嫌な気分になった。
普段はそう思わないのに、この気持ちはなんなのだろう。
「おいしいです」
「……ありがとうございます」
レンは自分の内に湧き出たこの気持ちが何なのかわからず、その正体を探ろうと男の方を改めて観察をする。
男はセールスマンのような風貌をしている。
ここは田舎町の店だから男の姿は浮いているが、ここが街だったら男はそこまで浮いた存在にはなっていなかっただろう。
スーツは仕立てがよさそうだ。だが、派手な物ではない。見る人が見ればわかる程度の控えめなもの。
ネクタイもシャツも問題はない。レンの視線はネクタイに止められたネクタイピンに目をやった。
「……」
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