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連絡のない日

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 あのガランの衝撃的な話から、数日が経った。
 レンは昼のピークを過ぎ、エイダとカーラしかいない落ち着いた店のキッチンスペースの中でこっそりと携帯の着信欄を眺めた。

「……あれから5日か」
 
 ガランからの連絡が途絶えて、5日。
 その間、メールも電話もない。
 レンからは何度か着信もメールも送っているものの、それらに返事が返ってくることはなかった。
 原因はわかっているからこそ、レンはそれ以上連絡することが出来ない。
 自分がガランを受け入れなかったからだ。それがガランの中で尾を引いているのだろう。
 レンだって、同じことを言われても受け入れられるかどうかーー。
 だが、このままで自然消滅で終わり、というのは避けたかった。
 ガランとの関係がどうなるかはわからないが、きちんとガランに向き合う事がレンの大人としての務め、ではないだろうか。

「……はあ」
「レン? どこか体調が悪いの?」

 そう声をかけてきたのはエイダだった。
 顔を上げると、エイダはカーラと二人、レンの方を心配げに見つめている。
 レンは慌てて携帯をポケットにしまい二人の座る席に向かった。

「い、いいえ。なんでも……、どうしましたか?」
「気のせいならいいの。なんだか、朝から元気がないように見えたから」
「そんなことは」
「貴方は人がいいから、たまに心配になるのよ」

 エイダは少しからかうような表情を浮かべた。
 カーラの方もエイダに同意するように頷く。

「ご心配おかけして申し訳ありません。けど、大丈夫ですから」
「無理はしちゃだめよ」
「そうよ。たまには愚痴くらい聞かせて。老婆心だけど、あまり我慢するのはよくはないわよ」
「……ありがとうございます」

 レンは二人を安心させるように笑みを返したが、それがどこかぎこちないものだと二人は気づいているだろう。
 だが、あまりレンが心配をされたくない質だとわかっている2人は互いにやりとりをするような視線を交わした後に、再度無理はするな、とだけいって話を終わらせてくれた。
   カーラは転んだ足に湿布を貼っている。かなり良くはなっているらしいが念のため娘に貼らされているらしい。
 そんなことを笑い話のように言われ、レンの心は少しだけ晴れやかになる。
 そのまま話題はエイダが作成途中のぬいぐるみの話題に移る。

「あのぬいぐるみのドレスなんだけど、少し時間がかかりそう」

 エイダはそう言いながら、写真に収めている作りかけのドレスを身に着けた写真をレンに見せた。
 写真の中のぬいぐるみはクリーム色のフリルのレースを身にまとい、とてもかわいらしい姿だ。
 内心、これは完成ではないのかとも思ったが、エイダから言わせればまだヘッドドレスやらフリルの増量をしなくてはいけないのだという。
 それはぬいぐるみ本体とのバランスを見て決めなくてはいけないことで、それでもうしばらくぬいぐるみを借りたいとのことだった。

「貴方の指定通りの日までにはできそうだんだけど……、それで問題ないかしら?」
「あ、そ、それが……」

 普段ならば二つ返事で問題ないというレンだが、棚の中にケビンが作ってくれたドレスも眠っている。
 ケビンからは催促の連絡はないが、やはり出来上がりはちゃんとぬいぐるみに着せたものを見たいだろう。

「どうしたの?」
「ドレスはどれでかまいませんが、ぬいぐるみだけ一旦返していただきたいんです。その……、少し待っていてください」

 エイダの言葉にレンは頷き、棚に保管したままのケビンの作ったぬいぐるみ用のドレスを取り出す。
 汚れないように透明の袋に入れていたドレスを二人はまじまじと見た。

「これは……?」
「実は、知り合いの方が作ってくださったんです。その方にも出来上がりの写真を着せてきちんと送っていただきたくて……、申し訳ありませんが、ぬいぐるみを一日だけ返して――」
「すてきじゃない!」

 レンが言い終わる前にエイダは目を輝かせてそう言った。
 キラキラと輝く瞳とはしゃぐエイダの勢いにレンは瞠目する。

「出来上がり気になるわよね!? ああもう早く言いなさいよ! すぐに夫に持ってこさせるわ!」
「ちょっとエイダ、そうしたら貴方家に連れ戻されるわよ、落ち着きなさいな。ねえレン。このドレスはどこの不審者さんからのドレス?」
「うっ……」
「あら? そういうこと?」

 女の勘という奴だろうか。
 カーラはこのドレスを見ただけで作った人物がケビンであることに気がついてしまったようだ。
 エイダも落ち着きを取り戻し、ニヤニヤとした顔を浮かべている。

「モテる人は辛いわね、黒髪の彼とどちらを選ぶつもり?」
「そ、それは――」
「ふふっ、いいのよ。どちらを選んでも私達は貴方の味方なんだから」
「ええレン、私たちは貴方のコーヒーの大ファンなんですもの。だから、貴方が何を選んでも私たちは貴方の味方をするわ」
「あ、ありがとう……ございます」

 二人からの好意がレンにはむず痒く感じられた。
 この二人は父マークが店をやっていた時からの付き合いだ。そんな二人にとってレンは息子――、いや、孫のような存在なのだろう。
 二人はその後もレンにガランやケビンの事を聞いてきた。幸い、その後に客が来て話すことはなかったが。


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