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マーク
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もう少しレンに言いたい事があったのかもしれない。
だが、レンがマークの想像よりも自分の現状を理解し、自分で何とかしようとしていたことをわかっていたのだろう。
それ以上はレンに何も言わず、むしろ、沈んでいるレンを見てコーヒーをいれてくれた。
マークが淹れるコーヒーはレンも好きだ。いつもは受け取ってからすぐ飲むというのに、レンはコーヒーに映った自分の沈んだ焦茶色の顔を見つめている。
マークが自分の分のコーヒーをもってリビングに戻ってきた時、レンはやっと口を開いた。
「本当に、すみません」
「過ぎたことはしかたない。それに、お前はガラン君の年齢を知らず、成人だと思い込んでいた。最初からあの子を未成年として思ってなかっただけで俺は十分だ」
「……でも、もし父さんや母さん、施設の皆になにかあったらーー」
「気にするな。とにかく、冷える前に飲みなさい」
マークに促され、ようやくレンはコーヒーを飲んだ。
マークのコーヒーは優しい味がする。どんな豆や煎りのものを使っても関係ない。
飲んだ人間の心を落ち着かせる、そんな味だ。
その味をレンが再現できるのはいつになるだろう。
そう思いながらコーヒーを飲んでいると、マークは重い空気を拭うように柔らかな笑みを向けた。
「何度も言うようだが、お前のことは信頼している。自慢の息子だ。ハンナも同じことを思っている」
「……」
「だから、気を付けてくれ。ガラン君の事や、先日にあった不審者騒ぎや宗教勧誘――、なにかあったら、俺たちに言いなさい」
「宗教、勧誘ですか?」
不審者騒ぎはケビンの事だとはわかるが、宗教勧誘というのは初めて聞いた。
思わず聞き返すレンにケビンは頷く。
「最近、近所で宗教の勧誘が来るようになったんだよ。そのせいでグラハムさんが町を離れることになった」
「あっ……」
言われて思い出した。
確か、店でエイダとカーラが以前話していた気がする。
「その後にエイダさんの所にも来たらしい。同じ人物ではなかったようだがね」
「言っていたのを思い出しました。まさか、施設にもきたのですか?」
「いや、まだ来てはいないよ。だが、今の段階で多くの人たちの家に来て勧誘を行っている。幸い、グラハムさんの件で皆警戒してくれているから、大きな問題は起きていないが。彼らは身なりのいいスーツ身に着けて、動物のバッチをつけているらしい。それで、応対した人間に対して『貴方はこの世界にいるか』と聞いて気になって話を聞こうとした人を彼らの集会に誘うとか」
マークは持っていたカップをテーブルに置いた。
カップが机に置く音が響く。
「施設ではそういった人間が来た時には規定通りの対応を行うから問題はない。ただ、もしお前の店に来た場合は気をつけろ。興味がないと言えば、相手方は普通に去るらしいから」
「わかりました」
「とりあえずは警戒を怠らず、何かあればすぐに言え」
マークの言葉にレンは頷く。
だが、マークはレンの答えに満足していないのか、じっと見つめてくる。
「……これは、勘違いだから、話半分で聞いてほしいんだが、そもそも俺が朝、お前とガラン君の車の所に来たのはその車に乗っているのが宗教勧誘の人間たちが乗っている車なのかと思ったからだ。彼らは仕立てのいいスーツを着て、複数人いるから高級車くらい乗るだろう、そう思ってね」
「そ、そうだったんですか」
朝、窓の外でスモークガラス越しにこちらを睨みつけていたのはそういう事だったのか。
レンもマークのその表情に戸惑ったが、マークもマークで最近やってくる宗教勧誘の車かと思いドアを開けさせたら息子と未成年の少年が乗っていたとはさぞかし驚いただろう。
「まさかお前が乗っていると思わなかったよ。それだけだ」
気にするな、とマークは言ってコーヒーを飲み切った。カップをテーブルに置いて立ち上がる。
レンの頭を一撫でして、リビングを後にした後ろ姿をレンはぼんやりと見つめた。
「……僕は、どうすれば」
マークはレンがガランと距離を置くことを望んでいる。
施設の責任者である父がそういうのだ。
レンもそれを受け入れたほうがいいのはわかっているが――、ガランにとってはそれでいいのだろうか。
ガランはレンに自分の過去を教えてくれた。それは半年の付き合いでレンが自分にとって信頼が出来る人物だからとガランが認識したからだ。
レンは受け入れることが出来なかったが、もう一度話すことが出来ればガランの事をより深く知れるかもしれない。
とにかく、前世などを信じているガランをそのまま一人にはできない。
でも、どうすれば。
ガランは前世の話をレンは受け入れてくれないと感じてしまっただろう。
どうにかまた話すようにしたいが、レンはどうすれば――。
「レン?」
「ッ! は、はい!」
後ろから声がかけられ、レンは飛び上がるように驚いた。
振り向くと立っていたのはマークだ。マークはレンの方を心配げな表情で見ていた。
「俺は施設に戻るが、どうする?」
「あっ、そ、その……、このまま、家に居ようと思います」
「わかった。ゆっくり休め」
レンはどうにか言葉を出し、平常を装いながら出ていくマークを見送る。
扉の占める音が聞こえた後、レンは22年間最大のため息を吐いた。
だが、レンがマークの想像よりも自分の現状を理解し、自分で何とかしようとしていたことをわかっていたのだろう。
それ以上はレンに何も言わず、むしろ、沈んでいるレンを見てコーヒーをいれてくれた。
マークが淹れるコーヒーはレンも好きだ。いつもは受け取ってからすぐ飲むというのに、レンはコーヒーに映った自分の沈んだ焦茶色の顔を見つめている。
マークが自分の分のコーヒーをもってリビングに戻ってきた時、レンはやっと口を開いた。
「本当に、すみません」
「過ぎたことはしかたない。それに、お前はガラン君の年齢を知らず、成人だと思い込んでいた。最初からあの子を未成年として思ってなかっただけで俺は十分だ」
「……でも、もし父さんや母さん、施設の皆になにかあったらーー」
「気にするな。とにかく、冷える前に飲みなさい」
マークに促され、ようやくレンはコーヒーを飲んだ。
マークのコーヒーは優しい味がする。どんな豆や煎りのものを使っても関係ない。
飲んだ人間の心を落ち着かせる、そんな味だ。
その味をレンが再現できるのはいつになるだろう。
そう思いながらコーヒーを飲んでいると、マークは重い空気を拭うように柔らかな笑みを向けた。
「何度も言うようだが、お前のことは信頼している。自慢の息子だ。ハンナも同じことを思っている」
「……」
「だから、気を付けてくれ。ガラン君の事や、先日にあった不審者騒ぎや宗教勧誘――、なにかあったら、俺たちに言いなさい」
「宗教、勧誘ですか?」
不審者騒ぎはケビンの事だとはわかるが、宗教勧誘というのは初めて聞いた。
思わず聞き返すレンにケビンは頷く。
「最近、近所で宗教の勧誘が来るようになったんだよ。そのせいでグラハムさんが町を離れることになった」
「あっ……」
言われて思い出した。
確か、店でエイダとカーラが以前話していた気がする。
「その後にエイダさんの所にも来たらしい。同じ人物ではなかったようだがね」
「言っていたのを思い出しました。まさか、施設にもきたのですか?」
「いや、まだ来てはいないよ。だが、今の段階で多くの人たちの家に来て勧誘を行っている。幸い、グラハムさんの件で皆警戒してくれているから、大きな問題は起きていないが。彼らは身なりのいいスーツ身に着けて、動物のバッチをつけているらしい。それで、応対した人間に対して『貴方はこの世界にいるか』と聞いて気になって話を聞こうとした人を彼らの集会に誘うとか」
マークは持っていたカップをテーブルに置いた。
カップが机に置く音が響く。
「施設ではそういった人間が来た時には規定通りの対応を行うから問題はない。ただ、もしお前の店に来た場合は気をつけろ。興味がないと言えば、相手方は普通に去るらしいから」
「わかりました」
「とりあえずは警戒を怠らず、何かあればすぐに言え」
マークの言葉にレンは頷く。
だが、マークはレンの答えに満足していないのか、じっと見つめてくる。
「……これは、勘違いだから、話半分で聞いてほしいんだが、そもそも俺が朝、お前とガラン君の車の所に来たのはその車に乗っているのが宗教勧誘の人間たちが乗っている車なのかと思ったからだ。彼らは仕立てのいいスーツを着て、複数人いるから高級車くらい乗るだろう、そう思ってね」
「そ、そうだったんですか」
朝、窓の外でスモークガラス越しにこちらを睨みつけていたのはそういう事だったのか。
レンもマークのその表情に戸惑ったが、マークもマークで最近やってくる宗教勧誘の車かと思いドアを開けさせたら息子と未成年の少年が乗っていたとはさぞかし驚いただろう。
「まさかお前が乗っていると思わなかったよ。それだけだ」
気にするな、とマークは言ってコーヒーを飲み切った。カップをテーブルに置いて立ち上がる。
レンの頭を一撫でして、リビングを後にした後ろ姿をレンはぼんやりと見つめた。
「……僕は、どうすれば」
マークはレンがガランと距離を置くことを望んでいる。
施設の責任者である父がそういうのだ。
レンもそれを受け入れたほうがいいのはわかっているが――、ガランにとってはそれでいいのだろうか。
ガランはレンに自分の過去を教えてくれた。それは半年の付き合いでレンが自分にとって信頼が出来る人物だからとガランが認識したからだ。
レンは受け入れることが出来なかったが、もう一度話すことが出来ればガランの事をより深く知れるかもしれない。
とにかく、前世などを信じているガランをそのまま一人にはできない。
でも、どうすれば。
ガランは前世の話をレンは受け入れてくれないと感じてしまっただろう。
どうにかまた話すようにしたいが、レンはどうすれば――。
「レン?」
「ッ! は、はい!」
後ろから声がかけられ、レンは飛び上がるように驚いた。
振り向くと立っていたのはマークだ。マークはレンの方を心配げな表情で見ていた。
「俺は施設に戻るが、どうする?」
「あっ、そ、その……、このまま、家に居ようと思います」
「わかった。ゆっくり休め」
レンはどうにか言葉を出し、平常を装いながら出ていくマークを見送る。
扉の占める音が聞こえた後、レンは22年間最大のため息を吐いた。
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