42 / 55
父とガラン
しおりを挟む
午後。
おやつの時間になり、子供たちは庭から施設の中に戻り、おやつを食べている。
空はごろごろと機嫌が悪い。雨が降るのだ。庭遊びはこれでおしまいだ。
これから他の施設の職員主動の元、映画を見るということになり、そうなるとレンたちは居なくて良くなるのでレンは子供から逃げたガランを探しに施設内を探していた。
ガランは子供たちにもみくちゃにされてさぞ疲れただろう。
レンは労いのため、ガランのためにアイスコーヒーを用意し、ガランの姿を探す。
幸いにもガランの姿は直ぐに見つかった。
施設の隅にある物置部屋。そこにガランはつかの間の休憩をとるために隠れていた。
「ガラーーッ!」
名前を呼びかけようとしたところで、レンは口を閉ざした。
ガランの隣には父マークがいた。
「ッ……!」
レンは反射的に反対の壁に隠れる。
レンは二人の様子を伺う。
幸い、二人はレンが来たことに気がついていない。
「ガラン君。レンとは付き合いは長いのかい?」
「……そこそこ」
「そうか。レンはいい息子でね、人当たりもよく人からよく好かれるんだ」
「……」
ガランとマークの会話は全く盛り上がっていない。むしろ、ガランはマークに話しかけられ迷惑そうな素振りさえ見せている。
しかし、マークはそんなガランにひるむことなく、レンについての話をしている。
いったいなぜ――。いや。理由ならわかる。
親としてレンの友人が気になるという親心からではない。もっと根本的な理由が。
それはレンが居ては意味がない――、レンが居ないうちに聞いておかねばならない話だ。
「あの子は昔から頼りになった。ハンナーー、僕の妻がこの児童養護施設を作った時、あの子はまだ幼かった。だけど、それでも何一つ言わず、子供たちの面倒を見てくれていたよ。今だってそうだ。施設の子供たちの面倒をみてくれているし、僕たち夫婦もとても助けられているんだ」
それ以外にも、マークはレンのいいところを次々と並べ立てる。
それはただ単に息子自慢をしたい訳ではなく、ガランとマークの共通項であるレンを使うことでガランとの間合いをはかっているようだった。
ガランもそれを察している。だから、普段よりも無愛想に振る舞うことでケビンから距離をとろうとしている。
外はゴロゴロとカミナリが鳴り、今にも大雨が降りそうな天気だ。
そんなガランのマークの間の関係を表しているようにも思えた。
二人はしばらく黙り込む。
長い間の後、マークが呟く。
「……だから少し、後悔してるんだ」
そのマークの声色は、さみしげだった。
対して大きくもないはずの声量なのに、レンの耳にはマークのその声がその後のため息も込みで聞こえてしまい、レンの心臓が縛り付けられたような痛みを感じるほどに鼓動が鳴る。
だが、マークはレンが盗み聞きをしていることに気が付いていない。
先ほどよりも沈んだ声でマークは言葉を付け足した。
「今でも思う。自分は、レンにちゃんと向き合えていたかとね」
「……ッ」
マークの言葉に、レンは小さく息を飲む。
アイスコーヒーを持つ手が震えだす。ダメだ、ここで落としたら確実に気づかれてしまう。
レンは落とさないよう、両手でグラスを強く握った。
「あの子のあの丁寧な口調ーー、君と一緒の時はどうだか分からないが、家でもそうなんだ。最初は施設だけだったのに、だんだん家でも使うようになって……。気が付けばレンは俺らに敬語で話すようになっていた。俺たちの、責任だ」
違う。
マークの言葉にレンは心の中で否定する。
だが、それにマークは気づくはずがなく、マークの言葉は続いた。
「俺は妻の不幸な子供を無くしたい、という夢を応援することに目を向けすぎていて、あの子と向き合うことを出来ていなかった。気が付けば、俺とあの子の間に大きな壁が出来てしまっていた」
敬語は両親を親と慕う施設の子供たちに気を使っての事だ。
施設を始めたての頃、レンは幼かった。そんな幼いレンの存在は施設の子供たちにとっては敵だった。
本来愛情を与えられるべき養育者から愛情を得られなかった子供たちにとって、やっと出来た愛情を受ける相手の実子など、排除すべき嫉妬の対象でしかない。
施設の子供たちを刺激しないよう、施設の中では敬語で話すようにしたのがただ癖になっただけのこと。
レンだって父と同じく母親の夢を応援したいと思っていた。
もちろん、寂しいと思ったことが無い訳ではない。
だが、だからといって2人に無視された訳では無いし、2人の肉親だからこそ感じる愛をレンはきちんと受け取っている。
それに――、これはマークが自己開示をすることでガランに心を開かせようとしているだけで本心ではそう思っていない――、はず。
「気がつけば、俺はあの子に本音で語り合えなくなっていた。どこか疎遠になっていったように感じて……、情けない話だ」
「ーーっ」
レンは目をぎゅっと瞑り、唇を噛み締めた。
親の後悔など、聞きたくない。
もう限界だった。
レンは足音を立てないよう、その場から立ち去る。
後ろから、ガランがマークに何か言っていたような気がするが、レンには聞こえなかった。
おやつの時間になり、子供たちは庭から施設の中に戻り、おやつを食べている。
空はごろごろと機嫌が悪い。雨が降るのだ。庭遊びはこれでおしまいだ。
これから他の施設の職員主動の元、映画を見るということになり、そうなるとレンたちは居なくて良くなるのでレンは子供から逃げたガランを探しに施設内を探していた。
ガランは子供たちにもみくちゃにされてさぞ疲れただろう。
レンは労いのため、ガランのためにアイスコーヒーを用意し、ガランの姿を探す。
幸いにもガランの姿は直ぐに見つかった。
施設の隅にある物置部屋。そこにガランはつかの間の休憩をとるために隠れていた。
「ガラーーッ!」
名前を呼びかけようとしたところで、レンは口を閉ざした。
ガランの隣には父マークがいた。
「ッ……!」
レンは反射的に反対の壁に隠れる。
レンは二人の様子を伺う。
幸い、二人はレンが来たことに気がついていない。
「ガラン君。レンとは付き合いは長いのかい?」
「……そこそこ」
「そうか。レンはいい息子でね、人当たりもよく人からよく好かれるんだ」
「……」
ガランとマークの会話は全く盛り上がっていない。むしろ、ガランはマークに話しかけられ迷惑そうな素振りさえ見せている。
しかし、マークはそんなガランにひるむことなく、レンについての話をしている。
いったいなぜ――。いや。理由ならわかる。
親としてレンの友人が気になるという親心からではない。もっと根本的な理由が。
それはレンが居ては意味がない――、レンが居ないうちに聞いておかねばならない話だ。
「あの子は昔から頼りになった。ハンナーー、僕の妻がこの児童養護施設を作った時、あの子はまだ幼かった。だけど、それでも何一つ言わず、子供たちの面倒を見てくれていたよ。今だってそうだ。施設の子供たちの面倒をみてくれているし、僕たち夫婦もとても助けられているんだ」
それ以外にも、マークはレンのいいところを次々と並べ立てる。
それはただ単に息子自慢をしたい訳ではなく、ガランとマークの共通項であるレンを使うことでガランとの間合いをはかっているようだった。
ガランもそれを察している。だから、普段よりも無愛想に振る舞うことでケビンから距離をとろうとしている。
外はゴロゴロとカミナリが鳴り、今にも大雨が降りそうな天気だ。
そんなガランのマークの間の関係を表しているようにも思えた。
二人はしばらく黙り込む。
長い間の後、マークが呟く。
「……だから少し、後悔してるんだ」
そのマークの声色は、さみしげだった。
対して大きくもないはずの声量なのに、レンの耳にはマークのその声がその後のため息も込みで聞こえてしまい、レンの心臓が縛り付けられたような痛みを感じるほどに鼓動が鳴る。
だが、マークはレンが盗み聞きをしていることに気が付いていない。
先ほどよりも沈んだ声でマークは言葉を付け足した。
「今でも思う。自分は、レンにちゃんと向き合えていたかとね」
「……ッ」
マークの言葉に、レンは小さく息を飲む。
アイスコーヒーを持つ手が震えだす。ダメだ、ここで落としたら確実に気づかれてしまう。
レンは落とさないよう、両手でグラスを強く握った。
「あの子のあの丁寧な口調ーー、君と一緒の時はどうだか分からないが、家でもそうなんだ。最初は施設だけだったのに、だんだん家でも使うようになって……。気が付けばレンは俺らに敬語で話すようになっていた。俺たちの、責任だ」
違う。
マークの言葉にレンは心の中で否定する。
だが、それにマークは気づくはずがなく、マークの言葉は続いた。
「俺は妻の不幸な子供を無くしたい、という夢を応援することに目を向けすぎていて、あの子と向き合うことを出来ていなかった。気が付けば、俺とあの子の間に大きな壁が出来てしまっていた」
敬語は両親を親と慕う施設の子供たちに気を使っての事だ。
施設を始めたての頃、レンは幼かった。そんな幼いレンの存在は施設の子供たちにとっては敵だった。
本来愛情を与えられるべき養育者から愛情を得られなかった子供たちにとって、やっと出来た愛情を受ける相手の実子など、排除すべき嫉妬の対象でしかない。
施設の子供たちを刺激しないよう、施設の中では敬語で話すようにしたのがただ癖になっただけのこと。
レンだって父と同じく母親の夢を応援したいと思っていた。
もちろん、寂しいと思ったことが無い訳ではない。
だが、だからといって2人に無視された訳では無いし、2人の肉親だからこそ感じる愛をレンはきちんと受け取っている。
それに――、これはマークが自己開示をすることでガランに心を開かせようとしているだけで本心ではそう思っていない――、はず。
「気がつけば、俺はあの子に本音で語り合えなくなっていた。どこか疎遠になっていったように感じて……、情けない話だ」
「ーーっ」
レンは目をぎゅっと瞑り、唇を噛み締めた。
親の後悔など、聞きたくない。
もう限界だった。
レンは足音を立てないよう、その場から立ち去る。
後ろから、ガランがマークに何か言っていたような気がするが、レンには聞こえなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
R-18♡BL短編集♡
ぽんちょ♂
BL
頭をカラにして読む短編BL集(R18)です。
pixivもやってるので見てくださいませ✨
♡喘ぎや特殊性癖などなどバンバン出てきます。苦手な方はお気をつけくださいね。感想待ってます😊
リクエストも待ってます!
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
R18、最初から終わってるオレとヤンデレ兄弟
あおい夜
BL
注意!
エロです!
男同士のエロです!
主人公は『一応』転生者ですが、ヤバい時に記憶を思い出します。
容赦なく、エロです。
何故か完結してからもお気に入り登録してくれてる人が沢山いたので番外編も作りました。
良かったら読んで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる