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父とガラン

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 朝の店内は冷たい空気が支配し、コーヒーの匂いが混ざりあっている。
 レンは淹れたコーヒーを2つ、テーブル席に座る父マークとガランの前に置いた。

「ど、どうぞ……」
「あぁ、ありがとう。レン」

 マイクはにこやかに、だけど心までは笑っていない顔をレンに向けたあと、正面のガランに視線を向ける。

「ガラン君。すまない。君を睨みつけて。さぞかし怖かっただろう」

 マークは申し訳ない顔をしながらガランに謝罪をした。
 それは車を睨みつけただけのことを考えれば随分丁重な謝罪のように見え、レンがガランなら直ぐに許してしまいそうなもの。
 が、ガランはその謝罪に対して棘のある返事をした。

「謝るなら俺じゃなくてレンにすべきじゃないのか? レン、怯えてたぞ?」
「ガラン!!」

 レンは慌てて、ガラン方に向かい、口を塞いだ。
 しかし時すでに遅し。マークはガランの言葉を聞き逃さず、レンの方に視線を合わせ、頭を下げる。

「本当にすまない。まさかお前が乗っているとは思わず、怯えさせてしまった」
「いえ! 気にしないでください! あ、あんな怪しげな車が止まってたら誰でも不思議に思いますよね!」
「怪しげって……、俺、結構来ていたぞ? 近くなのに、今まで気にしなかったって、どういうことだーー痛ッ!!」

 ガランの皮肉は足をレンが踏みつけたことにより遮られた。

「~~レン!」
「父の侮辱は許しません!」
「お前なぁ! 俺はお前のためを思って」
「まあまあ2人とも落ち着いて」

 マイクの言葉にレンとガランは睨み合いをやめ、お互いそっぽを向く形で座る。
 そんな二人をみて、マイクは苦笑いを浮かべた。

「とりあえず、自己紹介からしようか。僕はマーク。レンの父だ。君は?」
「……ガラン」
「ガラン君だね。レンとはどういう関係だ?」
「恋ーー」
「友達です! 元はお客様で、そこから意気投合して友人になり、定期的に彼の家へ遊びに行ってるんです! 年齢は20です!」
「…………ま、そういうことだ」

 ガランがレンを恋人、という前にレンがさえぎって嘘の説明をする。
 察しのいいガランは合わせてくれた。
 とにかく、早く父とガランの話し合いを終わらせたい。特に、ガランの年齢には一切触れられたくない。

「友人ーー、なるほど。ここ半年やってくる高級車の車はガラン君の事だったのか。もちろん気がついていたさ。ずっと気になってて。レンの店の常連客のエイダさんやカーラさんなら知ってるかと思って聞いてもはぐらかされるしね」
「……息子に聞けばいいじゃねぇか」
「ち、父は忙しいんです!」

 レンのフォローにマークは困ったように頭をかく。
 
「本音を言うと、心配してなかったんだ。俺は息子を信頼してる。それに常連客のエイダさんとカーラさんから漏れ出た話を聞くに、険悪な訳でもない。ただ、一応だ。最近、レンの店に不審者騒ぎがあったから……、心配でね」
「不審者?」

 ガランは自分の知らない話題がでたとレンに視線を向ける。
 不審者騒ぎというのはケビンことだ。
 ケビンの目的はガランだ。そんなこと、ガラン本人に言えるはずもない。

「そ、そのことはいいじゃないですか」
 
 レンは苦しい言い逃れをする。
 ガランはレンを睨むが、レンはそれに気づかないふりをした。

「そ、その……、じゃあ、ガランの誤解は解けた、ということで。ガラン。送って下さりありがとうございます。僕は施設に行きますからもう帰ってーー」
「その事なんだが、ガラン君、今日は暇かい?」
「……は?」

 マークの唐突な問い。レンの中に嫌な予感がよぎる。
 この流れは非常にまずい。そんな直感を感じた。

「レンの友人なら、俺らのことも多少は知ってるんだろう? 俺らは児童養護施設を運営してるんだが、今日は人手が無くてーー、良ければ子供を見てやってくれないだろうか?」
「ちょ、ちょっと父さん!」

 マークの発言にレンは慌てて立ち上がる。
 その勢いにより、座っていた椅子が後ろに倒れたが、そんなことレンは気にしていられなかった。

「む、無理ですよ! ガランに子供の世話なんて!」
「とは言っても、お前の手を借りても今日は人手が無くてね。遊ぶのを見守るだけでもいいんだ」
「だ、だめです! ガランはその、ガサツで、人に対して当たりが強くてーー!」
「別に、構わねぇ」
「は!?」

 思いがけない発言にレンは再び驚く。
 慌てふためくレンを面白いと感じたのか、ガランはにやりと意地汚い笑みを浮かべた。

「構わないって言ったんだ。どうせ俺も予定はないし」
「ガラン!?」
「本当かい!? 助かるよ」

 マークは満面の笑みで喜んでいる。
 レンには絶望しか浮かんでない。
 マークは喜ぶ素振りをするが、笑ってない目で店の駐車場に止めてあるレンとガランが乗ってきた車に視線をやる。

「あぁ、そういえば。君たちの乗ってきた車の運転手だが、あれはガラン君の親御さんかい? 彼にも事情を話さなくてはな」
「親じゃねえし話す必要もねぇ。今から帰らせる」
「わかった」

 不思議な程に進む順調なガランとマークの話し合いの中、レンのみがその真意に気が付き、汗を浮かべていた。
 
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