年下セレブのわがまま事情

事件発生

　ホテルで朝食を済ませたレンとガランを乗せた車はレンの自宅へと向かっていた。
　広い車内、ガランは見尽くしたであろう車窓を見ながらレンの頭を膝の上に乗せ、その髪の毛をなぜている。
　その手は優しく、穏やかだ。
　だが、レンの名誉のために言うが、膝枕の体勢はレンがされたいからガランにさせた、という訳ではない。むしろ逆だ。
　少し眠くなり、欠伸をしたレンをガランは無理やり自分の膝に寝かせたのである。
　レンは抵抗したが、ガランがそれよりも強い力で押さえつけられてしまったので、このような形に収まっている。
　ガランは年下。
　年下にこんな真似をされるとは、と恥ずかしさもあるが、今日だけは仕方がないかと諦めることにした。
　さすがに目的地に近くなったら起き上がらせてもらうが。

「……」

　それにしても、ガランの髪をなぜる手つき、慣れている。
　レンも子供の添い寝はしたことがあるので何となくわかるが、ガランもそのような経験があるのだろうか。
　これじゃ、いい加減眠くなってしまう。だめだ。さすがに寝るようではーー。

「レン」
「は！？」
「着いたぞ」
「……ッ！！」

　いつの間にか寝ていたらしい。
　レンは飛び起きるように体を起こす。
　車はレンの家から数分ほど場所についていた。

「す、すみません！」

　まさかガランの膝の上で寝こけるとは。
　不甲斐ない自分に嫌気がさす。

「いや、気にするな。それより、車の外にいる奴、誰かわかるか？」
「え？」

　レンは体を起こす。
　ここはレンが以前、タクシーを止めた時と同じ場所だ。
　今は使われていないバスの停留所だった場所である。
　地元民でも待ち合わせやタクシーを利用する時に使いやすい場所で、今更車を止めたからと言って目くじら立てられることではない。
　だが、そこに立っている人物を見てレンは驚愕した。

「と、父さん……？」

　そこにいたのは間違いなく、父マークだった。
　マークは警戒したような顔でスモークガラス越しのレン達を睨んでいた。