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事件発生

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 携帯の着信音で目が覚める。
 両親用に設定した特徴的なメロディにレンの意識はすぐさま覚醒する。広いベットの空きスペースに置いておいた携帯を手に取った。
 携帯に表示されている父の名前を確認した後、レンは電話に出るべく寝ているガランの腕から抜け出そうとした。
 が――、

「グッ……!」

 重い。
 ガランはレンの背中に巻き付くように寝ていた。蛇か何かのようにレンに密着している。
 力も強い。これでは抜け出すことは出来ないではないか。

「ガラン!」

 レンはまあまあ大きい声でガランを起こすように言うがガランは起きる様子がない。
 むしろ、レンが逃げると思っているのかさらに抱きしめる力を強めだす。

「~~ッ! ガラン、起きてください」

 なんとか腕を解こうと身をよじりながら、再び声をかけるがやはり起きない。
 携帯の通知音は変わらず鳴り続けている。
 時刻は深夜の1時。両親が今の時間にかけ、こんなにも長くかけているということは施設の方で余程の緊急事態があったということだ。
 しかたない。ガランは寝ているし、小声で話せば問題はないだろう。
 レンはガランの腕を外そうとするのをやめ、携帯のロックを解除すると直ぐに父のマークがでた。

『レンか?』
「お父さん、どうしたんですか?」

 マークの声は張り詰めていた。
 こんな日がまたいだ時間の電話だ。何か大きな出来事が起こったのだろう。
 マークは早口で一気に言う。

『すまないが、明日、店を休めないか? 施設の方に行ってもらいたいんだ』
「明日、ですか?」
『緊急で子供を受け入れることになったんだ。しかも5人』
「ご、5人……」

 5人という数は正に緊急事態だ。
 今まで2人とか、3人を一気に受け入れるということはあったが、5人など聞いたことがない。
 どんな事情があるのかわからないが、相当切羽詰まった状況なのはわかる。

『そのうち一人が難しい子でね。いつもの人数じゃ足りなさそうなんだ』
「なるほど……」

 受入作業は一人でも大変だ。
 もちろん施設には対応出来る優秀なスタッフがいるが、それと同時に今いる子供たちの世話も並行して行わなくてはならないとなるとレンの助けが必要である。
 レンは二つ返事で了承の意を伝えた。

「わかりました。なんじごーー、グアッ!」

 突如締まったみぞおちにレンは思わず悲鳴をあげた。

『レン?』
「な、なんでも……!」

 後ろを振り向くと、目を開けたガランがこちらを睨みながら、レンの体を強く抱き締めている。
 今だけは辞めろと目で訴え、レンは言葉を取り繕う。

「あ、す、すみません。大丈夫です。何時頃行けばいいですか?」
『午後には来てくれ。ハンナがその後に街の方で報告会に参加しなくちゃ行けないんだ』
「でしたら、もう少し早く行きます。母さんを休ませて報告会までに備えさせないと」

 報告会。
 報告会というのは施設に一定額の寄付金をしてくれている支援者に対して行われるものだ。
 内容は子供たちの現状報告という微笑ましいものから寄付金の内訳など多岐にわたる。
 特に、寄付金の内訳の報告では支援者から1ドル単位での細かい追求が行われ、自分たちの寄付金が適切な形で使われているかのチェックがある。
 レンも1度参加したことがあったが、子供達に対しては優しい支援者が別人のようにマークとハンナに金の使い道について追求する。
 その分、報告会の参加者からの寄付金の額は他の支援者とは大違いではあるが、何か不備でもあったら寄付金打ち切りも可能性があるため、父と母は報告会の前は金に間違いはないかなどのチェックを何度も会計士と共にし、万全な体制でいつもしているのだ。
 そんな大切なものを寝不足で行かせる訳にはいかない。
 父もそう思っているのだろう。レンの了承にマークは直ぐに電話越しで頷く。

『すまない。レン』
「気にしないでください。では」

 そう通話を切り、レンは振り向き、ガランを睨みつけた。
 黒い瞳がレンを見上げている。年下フィルターのせいでつい甘やかしてしまいそうになるが、そうはさせないと強い心で言った。

「痛いです、ガラン」
「……」
「言ったでしょう? 最近忙しくなったと。申し訳ありませんが、明日朝食食べたら直ぐに行きます」
「……」
「ガラン」
「……わかった」

 渋々といった様子でガランはレンの抱きしめる力を緩めた。
 レンが施設に関しては譲らないことをガランは知っている。だから自分が何を言っても無駄だと思っているのだろう。

「家までは送らせてくれ」
「――、わかりました」

 ガランはレンをさらに抱きしめる。
 本当は明日一日いれる予定だったのがレンの都合で無くなったのだ。
 それを惜しむかのようにガランはレンの首筋に顔を埋める。
 そんなガランの頭をレンは優しく撫でた。

「この埋め合わせはしますから」
「……絶対だぞ」
「はい」

 ようやくガランの腕が緩み、レンはその隙に再度ベッドに体を沈ませた。
 見上げると、夜空に浮かぶ星が綺麗に輝いている。
 明日ーー、といっても今日だが来る子供たちもこの光景をみて心癒されていればいい。そう思いながらレンは目を閉じた。
 
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