年下セレブのわがまま事情

ケビンの再訪

　次の日、昼をすぎた頃、ケビンはやってきた。
　出来たばかりのぬいぐるみの服を持ってだ。

「もう出来たんですか！？」

　レンは服を受けとり、出来上がりを確認する。 そこには昨日のデザイン画通りのドレスがあった。
　出来上がりは申し分なく、可愛い。

「どうかな？」
「とっても可愛くて素敵です！」

　思わず小さな歓声をあげる。ケビンも満足気な顔をしていた。
　縫製もきちんとしている。ミシンで縫われた細かい縫い目は子供が多少雑に扱っても問題ない作りになってる。
　作りが雑だったらエイダに手直しを頼めばいいと思っていたが、この出来ならば何もしなくてもいい。
　一応見てもらおうと思うが、こうも素晴らしい出来ならエイダは拗ねてしまうのではないだろうかすら思える。

「ケビンさん、すごいです。完璧です。こんな短期間でーー、ありがとうございます！」

　レンは目を輝かせながら言った。
　そんなレンの言葉にケビンは照れたように頬をかく。
　
「デザインが決まっているから、早くできたんだ。デザイン的にも布は少なくて済んだし、縫うのもそう時間はかからない」
「で、でも……、お忙しいでしょう」
「俺の仕事はな、待つのも仕事な所があるんだ。だからその間にちょちょいとな」
「……本当に、ありがとうございます」

　レンは大切な物を扱うようにそのドレスを抱きしめた。
　ケビンはその様子を見て、微笑み、昨日はあったはずのぬいぐるみをキョロキョロと探す。

「本当はあのぬいぐるみに着せてどうなるか見たかったが……」
「す、すみません！　朝、エイダさんーー、いえ、裁縫が得意な常連客の方が着て、ドレスを作るために渡してしまいました。来週には戻ってくるんですが……」

　昨日エイダとカーラが店に来なかったのはカーラが転び、腰を痛めてしまったからとの事だった。
　カーラ本人は大丈夫と言ったものの、カーラの娘がカーラを病院に連れていき、医者から1週間は安静にするように言われてしまい、エイダがカーラの見舞いがてら話し相手になっていたとの事らしい。
　そのため、エイダも少なくとも1週間はいつものおしゃべりをカーラの家でするとのことで、今日は開店してすぐにエイダが自分の旦那の分とカーラの娘の分を含めたコーヒーをテイクアウトしにやってきたのだ。
　レンはその時にドレスの話をした。案の定エイダは快諾してくれ、サイズとそのぬいぐるみに合った生地をみるためにレンはぬいぐるみを貸してしまったのだ。
　レンもケビンの服を着せたかったのに、まさか出来上がりがここまで早いとは思わなかった。

「戻り次第すぐ着せてみます。出来上がりは以前貴方が渡したメールアドレスに送りますから」
「そんなことはしなくていい。あぁでも、キツすぎたり緩すぎたりがあったらすぐに……、その場合は電話しても構わない」
「大丈夫ですよ。そうだ、これ、食べてください。試作品で申し訳ないのですが」

　そう言ってレンが出したのはケビンが来る前に作っていたクッキーだった。
　動物や星やハート型など子供が喜びそうな形で焼かれたクッキーの上には砂糖で色つけがされている。
　ケビンは皿の上に置かれた色とりどりのクッキーを見て、目を輝かせる。

「これはーー！」
「レシピ本通りのデザインなので、見た目は悪くないかと思います。一応、専門学校には通っていたので味は保証しますよ」
「い、いいのか！？」
「逆にこれくらいしか渡せるものがなくて申し訳ありません。コーヒーはもちろんサービスします」

　ケビンはレンの言葉を聞き、すぐさま皿の上に載せられたクッキーを手に取る。
　しばらく真剣な目でそのクッキーを見つめた後、名残惜しむように口にいれた。