年下セレブのわがまま事情

朝

　朝日がレンの瞼を優しく照らす。
　それが強いものになり、あまりの眩しさに顔をそらした。

「レン」
「……おはようございます」

　遮光カーテンを開けたガランはその光で目覚めたレンに優しく微笑んだ。
　ガランの黒い髪が太陽の反射でキラキラと輝き、夜の時とはまだ違った魅力をだしている。
　寝起きの目覚め切れていない意識のレンにガランは口付けを交わした後、その体を抱きしめた。

「今日、送ってやる。お前の車はホテルの奴に任せればいいから」
「……でも」
「お願いだ」
「……」

　レンの頭を撫でる手は優しかった。いつもなら、そんな優しい手に身を任せるのが普通だし、今もそうしてしまいそうな自分がいる。
　だが、レンはダメだと強く自分に言い聞かせ、なるべく自然な素振りでガランの体を手で押しのけた。

「……ありがとうございます。今日も仕事がありますし、朝食を食べたら行きます。あと……、これから、会う頻度を減らさなくてはなりません」
「レン？」
「実は、施設のほうでスタッフの退職者が出まして。しばらくは店の後、その手伝いでそちらのほうに行かなくてはいけなくて――」
「……」

　レンは昨日から用意していたセリフをガランの顔を見ずに言い切る。
　その言葉にガランはどんな顔をしているのか分からない。

「入る子も増えて、その子のケアもありますから。落ち着いたら、また連絡を――ッ」

　言い切る前にレンの体が勢いよく引き寄せられた。
　思わず体を硬直させると、ガランは優しく包み込むように抱きしめる。
　その温もりにレンは抵抗を忘れていた。

「いつまでだ？」
「……え」
「それはいつまでだ？」
「っ……、わかりません。少なくとも、新しい方が増えるのと、入った子が安定するまでは」

　嘘だと言いそうになるのを必死にこらえた。
　だが、こうやってガランの会う回数を減らしていけば、ガランはきっとレンに興味を無くす。
　そう考え、レンが付いた嘘なのだ。
　正直、このままガランに流されては切れる関係も切れない。
　だから、施設の手伝いを理由に徐々に関係を切っていく。
　ガランと関係を切るのはこれが一番だ。

「レン」
「は、っはい」
「俺は、お前の番だよな？」
「えっ……、つがい、ですか？　つがいって、なんですか？」

　レンが思わず顔を上げると、ガランは真剣な表情でレンを真っ直ぐ見つめていた。
　黒曜の瞳がレンを見つめる。それに吸い込まれそうだ。

「あの……、番って……」
「なんでもねぇ。食事、用意させるから待ってろ」

　レンは何か言いたげに口を動かすが、ガランはそれを言わせずにベッドから降りて行ってしまった。
　そのままリビングに戻るガランの背をレンはぼんやりと見つめる。