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約束の土曜

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 先日からの怒涛の出来事を労うように土曜日は快晴だった。
施設の子供たちはきっと施設の庭で楽しく遊んでいることだろう。
 そう思いながらレンは見た目の最終確認をすべく、自分の愛車に備え付けられたルームミラーで確認する。
 少し伸びた金髪は母親譲りの直毛で、いつも扱いに困る。正解が分からない自分の髪を指先で簡単に弄り直し、レンは車から出た。
 待ち合わせは街の広場。
 広場にある噴水はここが地元ではないガランでも分かる場所で、待ち合わせに都合がよい。
 レンはいつも通り迎えに行くというガランを説き伏せ、ここを待ち合わせ場にした。

「……」
 
 やはり、ガランと会うのは気まずい。あれから数回電話はしたが、直接顔を合わせるのは今日が初めてだ。
 あれからケビンの件と色々あった。今日も本当は来るべきでは無い気がしたが、約束は約束だ。

「……」
 
 レンの足は待ち合わせ場所に向かう。時間は予定よりも早いが早めについて気持ちを落ち着かせようと思った。
 が、待ち合わせ場所にはもう既にガランが待っており、驚きの表情を浮かべるレンの元に駆け寄るようにやってくる。

「よう。早かったな」
「お、おはようございます」

 まさかもういるとは。
 念のため腕時計と噴水の上にある時計塔の時間を確認すると、やはりまだ待ち合わせまで30分もある。
 さすがにこんな早くいるとは思わなかった。

「どれくらい前から待ってたんですか?」
「大した時間じゃない」

 そう言うガランの座っていたベンチには 空のペットボトルが数本置いてある。
 どうやらそれなりの時間、ガランはここにいたらしい事が伺いしれ、レンは先程まで感じていた緊張を忘れくすりと笑った。

「お待たせして申し訳ありません」
「……」
 
 ガランはレンの視線の先にペットボトルがあることに気が付いたのだろう。恥ずかしげにベンチに戻り、それらを近くのゴミ箱に捨てる背にレンは言葉をかける。

「待ち合わせ、もっと早い方がよかったですか?」
「……気にするな。たまたま早く起きただけだ」
「そうですか。すみません、お待たせする形になって。とりあえず、お腹空いたでしょう。ご飯にしましょうか」

 時刻はもう少しで昼食と言ってもいい時間になっていた。
 30分も早いおかげで昼の混み合う時間を避けて店にはいれるだろう。
 ガランもレンの言葉に頷く。
 
「レン、食べたいものは?」
「貴方の好きなもので構いませんが……」
「お前の好きでいい」
「好きなもの……」

 レンはそう言ってガランの服装を見る。
 いつものようなスーツ姿ではない、カジュアルな姿だ。
 ジーンズに黒のシャツを身につけ、その上に薄手のジャケットを羽織った姿はこの広場に合ってはいる。
 ガランのことだから、中のシャツだけで目が飛び出るほどの金額のものを着ているだろうが、せっかくTPOに合った服装をしてくれているのだ。多少くだけたものを食べても問題はないだろう。

「じゃあ……、ハンバーガーはどうですか?」
「好きなのか?」
「まあ、一応」
「じゃあ、あそこだな」
 
 やけに嬉しそうにガランは広場の近くにあるハンバーガー店を指した。
 見るからに普通のハンバーガー店だ。この店は昔からあり、レンは何度か行ったことがある。
 その店の味や内装を思い出しレンは首を傾げた。

「ここですか?」
「ダメか?」
「そういうわけじゃ……」
 
 あの店はハンバーガー店の中でもかなりリーズナブルな価格帯の店だ。
 その分、ハンバーガーの肉やパンの厚みは薄く、味も濃すぎる。
 子供がなけなしの小遣いをはたいて買うならまだしも、ある程度金を自由に使える大人が行く店ではない。
 ハンバーガーならここから数分歩いたところに値段はするが量も多く、肉も分厚い豪勢なバーガーを出す店もある。ガランが普段食べているものを考えるならばそこの店の方がいいのでは無いだろうか。

「少し歩きますが、もっと美味しいところがありますけど」
「あそこがいい」

 ガランは口調は柔らかいが、意思の強い口調で言い切る。
 そこまで良いかと外観に貼られた写真を見るが、やはりいつも通りの薄いハンバーガーがプリントされている。
 ガランの舌に合わないのではと思い再度言おうかとおもったが、何事も経験だ。
 セレブなガランは同じ年頃の子供が楽しむような庶民の味を体験したいのだろう。
 よく見ると店内はまだ空いている。これならすぐに入ることが出来そうだ。
 レンは頷き、店に入ろうとするガランの後を追った。
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