年下セレブのわがまま事情

ケビン

「いい加減にしてください」
「す、すまなかった。てっきり話をし続けているものとばかり」
「あんな大声出されたら誰だって聞き耳立てますよ！　ただでさえあの2人にはいろいろ知られているのに……！」
「い、いろいろって？ 一体どこまでーー」
「あの2人には接触しないでください！」

　レンはケビンを睨みつけると、ケビンは両手を上げ降参のポーズを取った。

「す、すまなかった。本当に、迂闊だった……、ごめんなさい」
「……」
「で、でも、俺は君の味方なんだ。それは、わかって欲しい」
「なら、貴方は何者なんですか？ なぜガランのことを僕に聞いたんですか？」
「そ、それは……！」
「言えないんですね」

　ケビンは気まずそうな顔をレンから背けた。
　やはり、ケビンは信用ならない。下手に動いてガランのことを知られるのはまずい。昨日はガランの事はごまかせたが、事を大きくさせるとまずいのはレンの方だ。
　だから、ここでケビンを拒絶せねば。

「お帰りください。僕は素性の分からない人間に知り合いの情報を流すほど人でなしではありませんから」
「……」

　有無の言わさないレンの圧にケビンはとうとう何も言えなくなったのだろう。
　肩を落とし、飲みかけのコーヒーを一呑みしたあと、懐から金を出し、テーブルに置いた。

「コーヒー、美味かった。今まで飲んだ中で1番。次は砂糖とミルクを入れてみたい」
「お世辞はいりませんよ」
「本当だ。だからーー、また、来てもいいかな？ 何もしない。ただ、コーヒーを飲むだけにする」
「……」

　ケビンは懇願するような目でレンを見つめる。そういった目で見られると、レンは弱い。
　それにこいつはガランのことを知っている。レンがガランのことを周囲にバレたらまずいのも分かっているのだろう。
　それなのに、レンの許可をいちいち取ろうとする単純さに絆されてしまいそうになる。

「……来ても僕は何も喋りませんよ」
「それでもいい。君の美味いコーヒーを飲めれば俺は満足だ」

　ケビンはそう言うと扉の方に向かったが、再度振り向く。まだ何かあるのかと身構える。

「これ渡しておく」
「……なんですか？」
「俺の連絡先だ。なにかあったら、連絡してくれ」
「……」

　レンは恐る恐る受け取ったメモ用紙を見つめる。
　そこに記載されていたのは電話番号とメールアドレスだった。
　何の変哲もないその電話番号を睨みつけるレンにケビンが言葉を続ける。

「あと、これは自分の勝手な願いだがーー、ガランという子のこと」
「……」
「君がよければあの子とこのまま関係を続けてほしい 」
「……は？」

　レンはその言葉を聞き、目を大きく開けた。
　まさか、レン以上にガランのことを知っているであろう人間の口からそんなことを言われるとは。
　普通、もう近づくなとか気をつけろとか言うだろう。ますますケビンの目的が何かわからない。

「……どういう、事ですか？」
「あの子が、君のことを大切に思っていること、分かっているだろう？」
「それは……」
「君だけはせめて、あの子のことを理解してあげてほしい。助けて、あげて欲しい」
「……貴方では、だめなんですか？」
「君でなくてはだめなんだ」

　そう言い切るケビンの目には強い意思が感じられた。
　その真意がわからず、レンは黙り込む。

「じゃあ。元気で」

　そう言ってケビンは去った。
　レンは不思議な気持ちのまま、ケビンがいなくなった後、空になったコーヒーカップを見つめた。