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父マーク
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自室のベッドの中で、レンは深いため息を吐く。
寝ようと思ったが、眠れない。当たり前だ。
あんなことが起きで直ぐに寝られるほどレンは図太くない。
しかし体は疲れているはず。だから目を閉じ無理やりにでも寝ようとしたのだが、それでも1時間ほどで目覚めてしまった。
「……」
寝るのを諦めたレンはベッドから起き上がり、身支度を簡単に整え家を出る。
向かう先は店だ。いつも、悩み事がある時は店に行き、大掃除をした後に自分のためだけにコーヒー豆をひいてコーヒーを飲むことにしていた。
普段の掃除では除去しきれていないホコリや汚れを綺麗にすることでモヤモヤとした悩みが払拭されるのだ。
家から店までは徒歩5分。
そう遠くない道を歩いていると、カフェの前に人影が見えた。
まさか、と思い足を止めるとカフェの前にいた人物がレンに気づき、親しげに手を振る。
レンはその人物の正体に気が付き、急いで沈んだ顔を辞めた。
「父さん!」
「レン!」
人物の正体は父親だった。
父親――、マークは恰幅のよい体と金髪の髭をたくわえており、やってくるレンに笑みをこぼしている。
内心、こんな時に会いたくなかったが、やはり父親に会えたのは嬉しい。
レンは父親に首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「さっき仕事が一段落したから、お前のコーヒーでも飲みに行こうと思ってね。だけどーー」
マークは申し訳なさそうに店の扉の前にかけられた「本日休業」という看板を一瞥する。
それを見たレンはすぐさまポケットから鍵を出し、店を開けた。
マークを店に入れようとしたところで、マークが止めるようにレンの腕を優しく掴む。
「いいよ。俺も家のカレンダーを見てくればよかった」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
「先週は毎日店を開けていただろう? 4日前は施設の夜勤を頼んでしまったし――、今が休みなら休むべきだ。働き詰めよりはずっといい」
「……それ、父さん達が言いますか?」
レンがマークに返した言葉には少しの皮肉と大きすぎる心配と愛情が混ざっていた。
レンの父であるマークは妻であるハンナと共に児童養護施設の運営をしている。
普段は夫婦揃って施設で寝泊まりをし、日々子供達の暮らしの管理や教育、はたまた支援者に対しての対応など幅広い業務を行っているのだ。
その多忙さ故、息子であるレンでも2人が完全に休んでいる姿を見たことがない。
今日だって夜通し何かしら仕事をしていたのだろう。
このままコーヒーを飲んだら眠る時に眠れなくなりそうだ。
しかし、マークには睡眠以外の息抜きも大事である。
「店、開けます。カフェインレスコーヒーか、ホットミルクならすぐ出しますから」
「気にするな。お前の顔が見れて回復した。すまないね。家をお前に任せて、ほとんど顔を会わせる暇がなくて」
「……大丈夫です。けど、本当に無理はしないでください。母さんも、無理をしないでと。僕ができることならしますから」
「ああ、わかってる」
そういい、マークはレンの頭を優しく撫でる。レンはもう成人男性というのに、マークはいつまでもレンを子供のように接する。
一応恥ずかしいという気持ちはあるが、やはり父親に頭をなぜられるのは嬉しい。
レンは父も、母も尊敬していた。不幸な体験をし、心が塞ぎきっている子供が両親の献身的な愛情で笑顔を見せるようになってくれるのをレンは息子として今まで何度も見てきた。
それは2人が本気で施設の運営に取り組んているからだ。だからそんな2人の助けになりたかった。
そのために店を数日休んだって構わないと思うほどに。
その思いをマークは感じたようだ。レンに優しい顔を見せ、背を向ける。
「お前の助言通り、家でゆっくり休むことにするよ。お前はどうする?」
「……店の中を掃除しようと思って」
「そうか。じゃあ俺は行くよ。レン、ありがとう」
「……はい」
マークが店から離れていく。それを見送った後、レンは店の鍵を開けて中に入り、父の後姿を窓から眺めた。
「……」
ガランのこと。
父親を失望させたくない。だが、どうすればいいかわからない。
相談なんてできるわけが無いだろう。
レンは22年間の中で最大のため息をついたあと、店の鍵を閉めた。
寝ようと思ったが、眠れない。当たり前だ。
あんなことが起きで直ぐに寝られるほどレンは図太くない。
しかし体は疲れているはず。だから目を閉じ無理やりにでも寝ようとしたのだが、それでも1時間ほどで目覚めてしまった。
「……」
寝るのを諦めたレンはベッドから起き上がり、身支度を簡単に整え家を出る。
向かう先は店だ。いつも、悩み事がある時は店に行き、大掃除をした後に自分のためだけにコーヒー豆をひいてコーヒーを飲むことにしていた。
普段の掃除では除去しきれていないホコリや汚れを綺麗にすることでモヤモヤとした悩みが払拭されるのだ。
家から店までは徒歩5分。
そう遠くない道を歩いていると、カフェの前に人影が見えた。
まさか、と思い足を止めるとカフェの前にいた人物がレンに気づき、親しげに手を振る。
レンはその人物の正体に気が付き、急いで沈んだ顔を辞めた。
「父さん!」
「レン!」
人物の正体は父親だった。
父親――、マークは恰幅のよい体と金髪の髭をたくわえており、やってくるレンに笑みをこぼしている。
内心、こんな時に会いたくなかったが、やはり父親に会えたのは嬉しい。
レンは父親に首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「さっき仕事が一段落したから、お前のコーヒーでも飲みに行こうと思ってね。だけどーー」
マークは申し訳なさそうに店の扉の前にかけられた「本日休業」という看板を一瞥する。
それを見たレンはすぐさまポケットから鍵を出し、店を開けた。
マークを店に入れようとしたところで、マークが止めるようにレンの腕を優しく掴む。
「いいよ。俺も家のカレンダーを見てくればよかった」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
「先週は毎日店を開けていただろう? 4日前は施設の夜勤を頼んでしまったし――、今が休みなら休むべきだ。働き詰めよりはずっといい」
「……それ、父さん達が言いますか?」
レンがマークに返した言葉には少しの皮肉と大きすぎる心配と愛情が混ざっていた。
レンの父であるマークは妻であるハンナと共に児童養護施設の運営をしている。
普段は夫婦揃って施設で寝泊まりをし、日々子供達の暮らしの管理や教育、はたまた支援者に対しての対応など幅広い業務を行っているのだ。
その多忙さ故、息子であるレンでも2人が完全に休んでいる姿を見たことがない。
今日だって夜通し何かしら仕事をしていたのだろう。
このままコーヒーを飲んだら眠る時に眠れなくなりそうだ。
しかし、マークには睡眠以外の息抜きも大事である。
「店、開けます。カフェインレスコーヒーか、ホットミルクならすぐ出しますから」
「気にするな。お前の顔が見れて回復した。すまないね。家をお前に任せて、ほとんど顔を会わせる暇がなくて」
「……大丈夫です。けど、本当に無理はしないでください。母さんも、無理をしないでと。僕ができることならしますから」
「ああ、わかってる」
そういい、マークはレンの頭を優しく撫でる。レンはもう成人男性というのに、マークはいつまでもレンを子供のように接する。
一応恥ずかしいという気持ちはあるが、やはり父親に頭をなぜられるのは嬉しい。
レンは父も、母も尊敬していた。不幸な体験をし、心が塞ぎきっている子供が両親の献身的な愛情で笑顔を見せるようになってくれるのをレンは息子として今まで何度も見てきた。
それは2人が本気で施設の運営に取り組んているからだ。だからそんな2人の助けになりたかった。
そのために店を数日休んだって構わないと思うほどに。
その思いをマークは感じたようだ。レンに優しい顔を見せ、背を向ける。
「お前の助言通り、家でゆっくり休むことにするよ。お前はどうする?」
「……店の中を掃除しようと思って」
「そうか。じゃあ俺は行くよ。レン、ありがとう」
「……はい」
マークが店から離れていく。それを見送った後、レンは店の鍵を開けて中に入り、父の後姿を窓から眺めた。
「……」
ガランのこと。
父親を失望させたくない。だが、どうすればいいかわからない。
相談なんてできるわけが無いだろう。
レンは22年間の中で最大のため息をついたあと、店の鍵を閉めた。
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