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ガラン

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 エイダとカーラは最後に男の方をちらりと見て、そのまま半ば逃げるように店から出る。
 いつもは店を出る時にもそれなりの時間がかかるのに、よほど男の背中から出た圧が気になったのだろう。
 2人が心配になるが、そう思いかけた瞬間に扉のむこうでエイダとカーラの大きな笑い声が聞こえてくる。
 扉越しでもわかる程の大きさに、レンは苦笑しながら机の片付けを始めた。
 本を小脇にして、空いた手で机に置かれたカップを回収し、手際よい動きで机を元に戻す。
 机が元の状態になったのを確認しレンはいつの間にか店主のレンしか入れないはずのキッチンスペースで水を飲む男に声をかけた。
 
「ガラン」
  
 ガラン、と呼ばれた男は顔をレンの方に向ける。
その見た目は、美しい見た目をしていた。
 夜よりも黒い髪とそれよりは薄い透き通ったチャコールの瞳。
 目鼻立ちを見ると、アジア系の特徴が色濃く出ているが、部分部分をよく見るとほかの人種の血を感じさせる特徴もあり、それが総合してガラン固有の美しさを醸し出している。
その見た目の美しさは身につけている高級スーツとオールバックにされた髪がさらに引き立てており、黙っていれば老若男女誰もが目を奪われる見た目であろう。
そんな人外じみた美しさの持ち主のガランだが、見慣れればなんとやら、だ。
 レンはすでに半年も付き合いもあるガランの美しさに慣れてしまった。
 だから、どんなにガランがこちらを見ていても何も思わず、レンの言葉を待つガランになんでもない顔で聞く。

「コーヒーでいいですか?」
「……ああ」

 レンの言葉にガランは作ったような低めの声で頷く。それを聞いたレンはすぐにキッチンに戻り、湯を沸かした。
 湯はすぐに沸騰し始め、レンは素早い動きでフィルターをドリッパーにセットし、その中に予め挽いていた粉をいれてカップ一杯分の湯を注ぐ。
 湯気と共にコーヒーの香りが店の中に広がる。その匂いでレンの顔は綻ぶ。
ガランもその芳醇なコーヒーの匂いで不機嫌も収まったのか、カウンター席に戻りレンのコーヒーを待っていた。
何も喋らない二人の間をコーヒーの芳醇な香織が繋ぐ。
レンはガランがレンの手元を見れないのをいいことに、不機嫌にさせたサービスを入れて、コーヒーを置いた。

「どうぞ」
「……」
 
 ガランは出されたコーヒーを見て、その表情が再度不機嫌に変わる。
ガランは濃茶色ではない薄茶色のコーヒーを睨みつけながらレンに呟くように聞く。

「……なぜミルクが入っている?」
「不機嫌にさせたサービスです」
「……」

 ガランは頼んでないミルクが入ったコーヒーを手に取り鼻に近づけ匂いを嗅く。
 そのまま、コーヒーを一口含み、舌の上で転がした後、更に嫌な顔をした。

「うげ……」

 ガランは一言そう呟いたあと、レンをギロリと睨みつけた。
おそらく、ミルクと同じくサービスで入れた蜂蜜の甘みに気がついたのだろう。
 ガランは甘いものが苦手だ。普段のレンはそれをわかっているからガランに砂糖を入れたものは出してないが、さすがに今日のガランのエイダとカーラの対応は酷すぎる。
 大切にしている常連客だ。喋れとは言わないが、あからさまに不機嫌なオーラを出すことはして欲しくない。
 これを機に懲りればいいのだが、ガランは懲りておらずレンを睨みつけながら甘いコーヒーをちびちびと飲んでいる。
 レンはそんなガランを涼しい顔で無視し、本格的に店の締め作業に入った。
 コーヒーのカップなどはガランが飲み終わったらやろう。その間、店の看板を変えるついでにレジの金を家の金庫に移しておくか。
 レンはそう思い、レジの金を手持ち用の金庫に入れた。カーラからもらった本も小脇にもち、レンはレジからガランに声をかける。

「少しだけ出ます。待っててください」
「……」

 ガランはコーヒーを飲みつつ、手をひらりとあげた。夕日はもう少ししか顔を見せていない。完全に暗くなる前にレンは店を出た。
 店から家までは徒歩5分。自室にカーラの本をおいた時間を含めても店に戻ったのはレンが店を出てから15分後のことだった。
 店に戻るとガランはすでにコーヒーを飲み終え、キッチンでコーヒーカップを洗っていた。
駆け寄ると自分の分だけではなく、後でまとめて洗っておこうと置いておいたエイダとカーラの分のカップや、コーヒーをいれるための器具なども洗ってくれている。
 一応、客であるガランにそこまでさせる訳にはいかないと、自分でやると言いかけるが、すでにほとんどの洗い物をガランは済ませていた。
 まさか嫌いなものを出したのにカップを洗ってくれていたとは。随分殊勝だと思いながらレンはガランに頭を下げる。

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