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カフェにて
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夕日が店内に差し込み、人の形の影がカフェ内を満たす。
眩しいだろうとレースカーテンを閉じた音は二人の老婦人の客のおしゃべりで完全にかき消された。
「だからほら、近所のグラハムさん家にね、来たらしいのよ。身なりのいいスーツで胸にうさぎのバッチをつけてて。最初はセールスマンかなにかと思ったって。グラハムさん、奥さんのリースさんが急に亡くなって落ち込んでいたでしょ? それでその人たちの話聞いちゃったそうよ」
「まあ、そういうの、心弱っている時が一番危ないのよねぇ」
「それで、その人が3日間毎日来て、グラハムさん、すっかり信頼しちゃって、たまたま様子を見に来た息子さんが来なかったら、危なかったわ」
「あぁ! グラハムさんが引っ越すのってそういう事?」
「ええ。そりゃ自分の父親が大丈夫って言っても、見知らぬ宗教にはまりかけていたならどんな子供だって心配するわ。でも、グラハムさんも本当は一人でさみしかったみたいなのよ。だから、息子さんからそう言われて安心していると思うわ」
「やっぱり一人はさみしいわよねぇ。私も娘が定期的に来ているけど、やっぱり時々さみしくなって」
「でも旦那がいるのも嫌なもんよ。今日だってあんたとお茶するだけってのに、いつ帰るんだ、夕飯までには戻れってうるさくて……」
「あんた、そう言っている内が華よぉ。やっぱり先立たれると――」
この店の常連客であるエイダとカーラの会話は、止まることを知らない。開店から閉店までずっとこの調子だ。
店を開いて2年。すっかり二人の会話をBGMに仕事をする癖がついてしまった。
閉店まで残り30分。新しい客はもう来ないだろう。
このカフェを一人切り盛りしているレンは慣れた手つきでレジカウンターを操作し、早々とレジの精算を行う。
そうこうしているうちに、エイダとカーラの話題は最近やってくる新興宗教の勧誘から明日の献立の話題に変わった。
たまにはピザが食べたいが大量には食べられないだとか、明後日カーラの娘が来ないからどちらかの家で食事をだとかーー、よくもまあ話題が尽きずに話が出来ると感心する。
だが、そろそろ2人を帰らせなければエイダの旦那とカーラの娘からクレームが入ってしまう。
そろそろ退店願おうかと考えているところに、カフェの扉が開く。
「いらっしゃいませ」
反射的にそう言いながら扉の方に目を向ける。そこに居たのはスーツを着た男だった。
量産品ではない黒のフルオーダースーツを身につけた男は慣れた様子で一目散にレジに近いカウンター席に座りーー、隠す様子のない不機嫌なオーラをエイダとカーラに投げつけた。
あからさまなそのどす黒いオーラを感じたエイダとカーラはマシンガントークをぴたりとやめ、素早く荷物をまとめて財布から金を出す。
「オホホ……、レン、私たちこれで失礼するわ」
「お金はこれ。2人でぴったりよ」
2人は男に追い出される形になっていたというのに上機嫌だ。
ぴったり2杯分のコーヒーの代金を受け取った後、レンは客の2人に頭を下げた。
「いつもありがとうございます」
「ごめんなさいね。年老いた乙女2人、長々と」
「そんなことありません。お2人がいるおかげで店の雰囲気も明るくなります」
「あら、レン、あまり私たちにお世辞を言わない方がいいわよ……ねぇ?」
2人はそういって意味ありげに背を向けたままの男の背にちらりと視線を向ける。
男の不機嫌なオーラは未だ発されていた。レンは2人を守るように男と二人の間に立つ。
「お2人には僕や両親含め色々と世話になってますし――、またお越しください」
「そうさせてもらうわ。あぁ、そうだ。これを渡さないとね」
そう言いながらカーラのカバンから出されたのは一冊の本だった。レンはそれを見て笑みを浮かべる。
「ありがとうございます!」
レンはもらった本をぱらぱらとめくる。
内容は海外で書かれたファンタジー小説のようだ。
分厚い厚みとこだわったらしき装丁には重厚感あるストーリーが感じさせられる。娯楽に飢えている子供たちにはいい刺激になるだろう。
「いつもありがとうございます。両親も、子供たちもきっと喜びます」
「本当かしら。施設の本棚で埃をかぶっていないといいけど」
「そんなことありませんよ。確かに子供には難しいと思いますが、背伸びしたい年頃の子にはちょうどいいです。カーラさんからの本、楽しみにしている子も多いんですよ」
カーラの趣味は読書だ。
定期的に街の本屋に繰り出し、気に入った本を買い、それを読み終わったら児童養護施設を運営しているレンの両親に面白かった本を寄付してくれる。
長年の趣味というだけあって本の内容はかなりよい。
喜ぶ子供たちの顔が思い浮かび、レンは思わず顔を緩める。
「ならよかったわ。じゃあ、私たちはこれで。また明日ね」
「すみません、明日は休みで……」
「あら――、じゃあ明後日ね」
「よろしくお願いいたします」
「お父さんとお母さんによろしく。じゃあね」
眩しいだろうとレースカーテンを閉じた音は二人の老婦人の客のおしゃべりで完全にかき消された。
「だからほら、近所のグラハムさん家にね、来たらしいのよ。身なりのいいスーツで胸にうさぎのバッチをつけてて。最初はセールスマンかなにかと思ったって。グラハムさん、奥さんのリースさんが急に亡くなって落ち込んでいたでしょ? それでその人たちの話聞いちゃったそうよ」
「まあ、そういうの、心弱っている時が一番危ないのよねぇ」
「それで、その人が3日間毎日来て、グラハムさん、すっかり信頼しちゃって、たまたま様子を見に来た息子さんが来なかったら、危なかったわ」
「あぁ! グラハムさんが引っ越すのってそういう事?」
「ええ。そりゃ自分の父親が大丈夫って言っても、見知らぬ宗教にはまりかけていたならどんな子供だって心配するわ。でも、グラハムさんも本当は一人でさみしかったみたいなのよ。だから、息子さんからそう言われて安心していると思うわ」
「やっぱり一人はさみしいわよねぇ。私も娘が定期的に来ているけど、やっぱり時々さみしくなって」
「でも旦那がいるのも嫌なもんよ。今日だってあんたとお茶するだけってのに、いつ帰るんだ、夕飯までには戻れってうるさくて……」
「あんた、そう言っている内が華よぉ。やっぱり先立たれると――」
この店の常連客であるエイダとカーラの会話は、止まることを知らない。開店から閉店までずっとこの調子だ。
店を開いて2年。すっかり二人の会話をBGMに仕事をする癖がついてしまった。
閉店まで残り30分。新しい客はもう来ないだろう。
このカフェを一人切り盛りしているレンは慣れた手つきでレジカウンターを操作し、早々とレジの精算を行う。
そうこうしているうちに、エイダとカーラの話題は最近やってくる新興宗教の勧誘から明日の献立の話題に変わった。
たまにはピザが食べたいが大量には食べられないだとか、明後日カーラの娘が来ないからどちらかの家で食事をだとかーー、よくもまあ話題が尽きずに話が出来ると感心する。
だが、そろそろ2人を帰らせなければエイダの旦那とカーラの娘からクレームが入ってしまう。
そろそろ退店願おうかと考えているところに、カフェの扉が開く。
「いらっしゃいませ」
反射的にそう言いながら扉の方に目を向ける。そこに居たのはスーツを着た男だった。
量産品ではない黒のフルオーダースーツを身につけた男は慣れた様子で一目散にレジに近いカウンター席に座りーー、隠す様子のない不機嫌なオーラをエイダとカーラに投げつけた。
あからさまなそのどす黒いオーラを感じたエイダとカーラはマシンガントークをぴたりとやめ、素早く荷物をまとめて財布から金を出す。
「オホホ……、レン、私たちこれで失礼するわ」
「お金はこれ。2人でぴったりよ」
2人は男に追い出される形になっていたというのに上機嫌だ。
ぴったり2杯分のコーヒーの代金を受け取った後、レンは客の2人に頭を下げた。
「いつもありがとうございます」
「ごめんなさいね。年老いた乙女2人、長々と」
「そんなことありません。お2人がいるおかげで店の雰囲気も明るくなります」
「あら、レン、あまり私たちにお世辞を言わない方がいいわよ……ねぇ?」
2人はそういって意味ありげに背を向けたままの男の背にちらりと視線を向ける。
男の不機嫌なオーラは未だ発されていた。レンは2人を守るように男と二人の間に立つ。
「お2人には僕や両親含め色々と世話になってますし――、またお越しください」
「そうさせてもらうわ。あぁ、そうだ。これを渡さないとね」
そう言いながらカーラのカバンから出されたのは一冊の本だった。レンはそれを見て笑みを浮かべる。
「ありがとうございます!」
レンはもらった本をぱらぱらとめくる。
内容は海外で書かれたファンタジー小説のようだ。
分厚い厚みとこだわったらしき装丁には重厚感あるストーリーが感じさせられる。娯楽に飢えている子供たちにはいい刺激になるだろう。
「いつもありがとうございます。両親も、子供たちもきっと喜びます」
「本当かしら。施設の本棚で埃をかぶっていないといいけど」
「そんなことありませんよ。確かに子供には難しいと思いますが、背伸びしたい年頃の子にはちょうどいいです。カーラさんからの本、楽しみにしている子も多いんですよ」
カーラの趣味は読書だ。
定期的に街の本屋に繰り出し、気に入った本を買い、それを読み終わったら児童養護施設を運営しているレンの両親に面白かった本を寄付してくれる。
長年の趣味というだけあって本の内容はかなりよい。
喜ぶ子供たちの顔が思い浮かび、レンは思わず顔を緩める。
「ならよかったわ。じゃあ、私たちはこれで。また明日ね」
「すみません、明日は休みで……」
「あら――、じゃあ明後日ね」
「よろしくお願いいたします」
「お父さんとお母さんによろしく。じゃあね」
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