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謝罪
しおりを挟む憎しみがすべてシュウ達に向けられている。
それを止めるようなことはしたくない。ユウヤと入れ替わり、ユウヤの苦しみを体験したトオルも、シュウ達の行動を信じられないのだから。
「……なんで、なんで、あんなことしたんだよ?俺を殴ったり、レ、レイプしたり……」
「……」
「俺ら、友達だっただろ? それなのに、なんで、信頼してたのに。3人と友達になれて――、嬉しかったのに」
「…………ユウヤ」
ユウヤは、泣いていた。
大粒の涙をぼろぼろと溢し、声をあげて泣く。
捻挫のせいで足が動かないのがもどかしい。近くにより、背中をさすってやりたい。
泣くユウヤをシュウとアリユキは無表情で眺めていたが、しばらくしてシュウが呟く。
「俺のせいだ」
「シュ、シュウ!」
シュウの呟いた言葉をアリユキは聞き逃さなかった。
慌てた様子のアリユキを無視し、シュウは言葉を続ける。
「俺が、悪い。俺が、アリユキを、リクを変えてしまったんだ」
「シュウ、違う、俺は――」
「俺は、誰かを、自分の意のままにしたかった。だけど――、自分が、怒られるのは怖かった。だから、俺はそれにアリユキとリクを利用してしまった。俺が2人に教えてしまったんだ。人を好きにさせる快感を。それに、ちょうど現れたがお前だ。ユウヤ」
「……」
「お前は奨学金でこの学校に通ってた。だから、多額の寄付金を親が払ってる俺に逆らえないとリクから言われた時、俺はその話に乗ってしまった。実行をアリユキにさせて、俺はいいところだけを甘受する。それが、気持ちよかった。お前が、嫌だと泣き叫ぶたび、心が高ぶった。もっと、苦しめてやりたい。そう思った」
昨日、アリユキの言っていた話を思い出す。
シュウは、昔こっそり飼っていた猫を殺そうとしていた。それをアリユキが代わりに猫を殺してしまった。
多分、それがシュウの一番の間違いだったのだろう。
仮に、シュウが一人で猫を殺していたら、アリユキが殺さなかったら――、きっと、今のように誰の後ろ盾がないユウヤを利用するなどそんな姑息な手はとらなかっただろう。
「アリユキは、俺の言う通りにしただけにすぎない。リクも、俺がいつの間にか教えてしまったんだ、人を意のままにする快感を。誰かのせいにすればいいという考えを。それが、今あいつを狂わせた。俺が、悪い」
そう言い、シュウは床にしゃがみ正座をした後頭を床につけた。
土下座だ。あのシュウが、トオルとユウヤに土下座をしている。
「すまない」
呆気にとられるトオルとユウヤに代わり、先に反応したのはアリユキだった。
「シュウ!」
頭を擦り付けるシュウの頭を必死に、上げようとしている。
「やめ、やめろよ。お前が、そんなことするなんて。俺が、俺が、悪いんだよ。だから……!」
アリユキは子供のように縋りつきシュウの土下座を辞めさせようとしている。
普段のアリユキとシュウとのあまりの違いに、見ていられなくなりトオルは目を逸らす。
それはユウヤも一緒だった。
頭を下げ続けるシュウを前にユウヤは苦しそうに声を絞り出す。
「……少し、考えさせて欲しい。だから、二人とも、出て行って」
ユウヤの言葉に、シュウは頷いた。
土下座を辞め、部屋を出ていくシュウの後姿をアリユキが追う。
扉が閉められ、トオルと二人きりになったユウヤは力が抜けたように床に倒れこんだ。
トオルとユウヤを虐げてきた人物の謝罪は、本来ならば胸がすくような痛快な気分になるはずであった。
だが、トオルたちの中に残ったのはどうしようもないやるせなさしかなかった。
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