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決断
しおりを挟む目が覚めると、懐かしい天井が見えた。
自分の部屋だ。ユウヤの家のものでは無い、トオルの自室のものだ。
目が覚めてこの光景ということは、トオルは戻ったのだろうか。元の体に。
そう一瞬でも自分がそう考えてしまったことに苦笑する。
今、トオルが寝かされていたのはトオルが使ってたベッドの上だった。その隣にはユウヤが眠りについていた。
規則正しい呼吸をしながら寝ているユウヤを起こさぬよう、トオルは起き上がる。
まだ、ユウヤには安らかな夢を見ていて欲しい。
幸い縛られていた手は2人とも解かれていたが、手首を見ると痛々しい跡が着き、眠る前の行為が嘘では無いと証明している。
「……ッ」
起き上がったと同時に体の奥から流れる液体が下に流れる不快な感覚がトオルを蝕む。
一体どれだけの回数をあの3人はしたのだろう。時間を見ると日付が変わる少し前を指していた。意識を失った時間を考えてもそれなりの時間行為をしていたということだ。
3人の姿はない。だが、あんなことをしておいてそのままという訳では無い。
まだ高校二年の夏休みの序盤。きっと、この関係は終わることはない。
「……」
ベッドから降りて体にまとわりつく誰のものかも分からない体液をそのままに最低限の服を身につける。
ユウヤの安らかな寝顔を確認し、トオルは部屋の電気を消した。
■■
シュウ、リク、アリユキの3人は1階のリビングを我が物顔で使用していた。
まるでいつものたまり場の家のように使われ、仮にも我が家を使われた感覚のトオルは嫌な気持ちになる。
机には食べ物と飲み物とトオルとユウヤの携帯が置いてあり、やり取りを見ていたことが分かる。
階段から降りてきたトオルに先に気がついたのはアリユキだった。
「おう、ユウヤ――じゃなくて瀬名か。起きたか?」
アリユキの言葉につられ、シュウもリクもトオルの方へ振り向く。
その視線はトオルに突き刺さる。言葉は優しいアリユキもその視線は一緒だった。
「ユウヤは?」
「……まだ、寝てる」
「ふうん、腹減ってるだろ。なんか食べるか?」
アリユキの誘いに首を横に振ったトオルはリビングを見渡す。
リビングが荒れてないことに内心ほっとする。よく見れば机に置かれている食べ物も皆近くのコンビニで買ってきたものでこの家で使用したものはないようだった。
「別に荒らしちゃいねぇよ。お前の部屋以外はな。2階の残り部屋って親の部屋?」
「……そう」
「1週間帰らないんだってな。お前らのこと、知ってんの?」
「……知らない」
アリユキの質問はいくつか続いた。それは、おそらくトオルになったユウヤがトオルの親に自分たちのことを言ったのではという考えのようだったが、トオルもユウヤも親には教えていない。
3人からいくつかの質問がきたあと、トオルは3人に言った。
「その、ユウヤを、解放してくれないか?」
「……」
トオルの言葉に3人は黙り込む。
だがそこには困惑は無い。ただ単に誰かトオルに言うのか迷っているようだった。
「ユウヤは、もう、俺だ。だから、俺が今まで通り」
「なぜだ?」
「あ、あのユウヤを見ただろ!? 過呼吸になって、辛そうな――」
「いつも通りだ。よくあいつは過呼吸になってたし。そのまま使っても問題なかった」
「なっ――」
シュウの言葉にトオルは固まる。
過呼吸の人間をシュウ達はそのまま行為をしていたということだろうか。
そんなの、酷い。
「なんで……」
「なんでって最初は俺らも心配してたけど、毎回そうなっちゃ俺らも待てねえしあいつも大丈夫っていったから」
「その話じゃない!」
アリユキの何でもないような言葉をトオルは大声で遮る。
明らかにユウヤを道具として扱うような言い方にトオルの我慢は限界をとうに超えていた。
「なんで、なんでユウヤをあんなこと。友達だったんだろ!? ユウヤ、3人のこと友達だったって、なのに、なんでーー」
「成り行きってもんだよ」
アリユキから言われた意味のわからない言葉にトオルは固まる。
そんな意味のわからない理由であんなにユウヤを追い込んだ。それがトオルには理解できない。
「な、成り行きってッ! とにかく、もうユウヤには、近づかないで」
「とは言ってもよ、瀬名にも知られちゃったしな。いつ瀬名の親にお前かユウヤがチクるか、わかったもんじゃない。それに、俺らもユウヤ1人じゃいい加減物足りなくなってきたところだし、ちょうどいい」
「――ッ! 俺は言わない! ユウヤも、言わないようにするから――」
「それが信用できる根拠は?」
根拠。シュウからそう言われてトオルの言葉は詰まる。この3人はばれてしまったのならいっそのこと今はトオルであるユウヤも使おうとしているのだ。
トオルはあんなに取り乱れたユウヤを、もう見たくない。なら、自分が今まで通り3人の相手になると言いたいが、3人は納得しない。
どうすればこの3人を納得させるか、思いつかない。
黙り込むトオルに対し、口を開いたのはリクだった。
「じゃあ、お前らが戻ればいいだろう。お前らが戻れば、全て解決する」
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